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第163話

でも本当にそれでいいのか? 迷いながらもどうすることもできず、僕はスマホを取り出す。 「玲何してるの?」 「え…と…会社に、連絡を…」 嘘ではない。いつ戻れるか分からない状況になった今、会社に連絡をするのは当然のことだ。それなのにどきりとしたのは、連絡する相手を知られたくなかったからだ。会社にいるはずの、馨。 でも、それは叶わなかった。 「必要ないよ」 幸人さんが笑顔でそう言ったからだ。 僕はその言葉の意味が分からなくて困惑する。焦る。 「で、でも、連絡しないと困るんです…」 必死に出て来た言葉が頼りなくて泣きそうになる。 「どうして困るの?」 馨に連絡できない、それもあるけど、 「会社…いられなくなるかも…」 想像しただけで震える。 もし、このまま僕が二人の元に戻って、会社まで辞めてしまったら馨との繋がりが無くなってしまう。そんなの嫌だ…。 「玲がさぁ、望むようにするよ?」 「え…?」 幸人さんの言葉に思考が止まる。僕の望むこと…? 「いつだって、俺たちは玲のことを考えてる。なあ、圭史」 「……そうだな」 圭史さんまでそんなことを言いだして、僕は混乱する。 「玲、お前が望んでいることを俺たちは叶えているだけだ」 「な、そんな、こと…」 無い、とは言い切れなかったのは、心の中でもう一人の自分が何かを言ったからだ。 ぞくりと胸がざわめく。駄目だ、違う、そんなことは…。 「違わねえだろ?」 圭史さんの言葉が、それが、僕の言葉か、分からない…でも…。 「お前がここに来て、俺達がここにいるのは、お前がそう望んだからだよ」 「ち、違う…、だって…」

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