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第7話
「ふぁぁ~~っ ――」
ほっとすると一気に疲れが押し寄せて来て、
さっきから大あくびの連発。
ERが、三次救急を取り扱うあの病院内で
一番忙しくしんどいセクションだって事は
研修を始めた時から覚悟していた。
でも、少し覚悟が足らなかったのかも知れない。
今日はゆっくり休んで英気を養い、
明日からは気を引き締めて頑張らなきゃ。
帰宅した倫太朗は玄関の三和土(たたき)に
何足かの見知らぬ革靴を見付け少しうんざりした
様子で眉をひそめた。
”今日も我が家は千客万来、か……”
夏のお中元の時期や年末年始は
伯父へご機嫌伺いに来る大学病院の医学生・講師・
准教授さん達の人数が桁違いに多くて、
流石に最近は何ともなくなったが、中学の頃は
”なんでうちだけあつしや陽太のとこと
違うんだ??”
って、いっつも不満で一杯だった。
要は ”構われなさ過ぎで寂しかった”のだが、
そんな寂しさも何時の頃からか、自慰やセッ*スで
紛らわすようになっていった。
倫太朗はいつものように応接間の前を通って
奥の茶の間へ向かおうとして、開放されたままの
応接間の扉から見えた室内の様子の異様さに、
思わず足が止まった。
それに気付いた執事の八木が扉を閉めようと、
戸口へやって来た時、倫太朗はとっさにこう声を
かけていた。
「悪いけど、何か温かい飲み物部屋へ持ってきて
くれる?」
「はい、畏まりました。お紅茶で宜しゅう御座い
ますか?」
「うん、忙しいとこごめんね」
当家に仕えて30年の大ベテラン執事・八木は
香り高い紅茶と共に本場英国仕込みの
イングリッシュマフィンとひと口サンドイッチも
持ってきた。
「八木さんもお腹空いてない? 俺1人で食べても
味気ないから一緒に食べてよ」
「では、失礼してご相伴にあずかります」
……その紅茶を何口か飲み、
サンドイッチも完食してから、本題を切り出した。
「何があったの?」
「てっきり倫坊ちゃまはご存知だとばかり思って
いましたが」
「??……」
「絢太朗様が若奥様と離婚なさると**様に報告
なさったんです」
「んー……絢兄んとこ、あんまり上手くいってなかった
みたいだもんな」
「離婚の報告だけならまだしも、続けて絢太朗様は
奥様との離婚が成立した暁には、姫川家の末の
お嬢様と一緒になりたいと、申されまして……」
「え ―― っ。姫川の末って、きーちゃ、いや、
清華さんの事?」
「はぁ、左様で御座います」
その時、倫太朗の脳裏に
『―― こう見えても私、けんたろうさんと
出逢ってかなり強くなったのよ 』と、
誇らしく言っていた清華の顔が浮かんでいた。
(年末、久しぶりに会って、燃え上がっちゃった
ってか??)
「で、伯父さんが怒りまくってあの有様ってワケ?」
「は、ぁ、史恵様は驚きのあまり卒倒して、
寝室でお休みになられています」
(そりゃあ卒倒もするわな……期待の跡取り息子が
大株主の愛娘に手ぇ出したんだから……)
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