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第26話

  翌朝、柊二が大吾の部屋を尋ねると、   LDKでまりえと1人娘の   (柊二にとっては姪の)桃子が朝ごはんを   食べているところだった。 「あー、柊叔父ちゃん!」 「こーら、桃子、叔父ちゃんじゃあなくて、お兄ちゃん  だろー」   苦笑いを浮かべたまりえが柊二用にコーヒーを   注いで持ってきた。 「ありがと ―― で、倫太朗は?」 「それがね……」   まりえは少し表情を曇らせ、エプロンのポケット   から取り出した紙片を柊二へ差し出す。   それは、倫太朗が書き置きしていったメモだった。   ”お世話になりました。いずれ、ご挨拶には改めて    お伺い致します。―― 桐沢倫太朗” 「いずれって、いつだよ……」   (あいつまさか!     あの家に舞い戻る気なんじゃあ……)   倫太朗の思わぬ行動に戸惑い。   けど、何より倫太朗の身の安全が心配で。   イライラと親指の爪を噛む。 「ね~ぇ、おじ ―― お兄ちゃん。ももとあそぼ?」 「あ、あぁ……」   って返事はしたが、上の空。 「おにいちゃぁ~ん」 「ほら、桃子、あんまり叔父ちゃんを困らせちゃ  だめよ。そろそろ”おかあさんといっしょ”の  時間じゃない?」 「あー、そうだね」   桃子はダイニングテーブルから離れると、   テレビの前へ行った。 「―― 柊二さん? そんな風に手をこまねいてる  なんて、あなたらしくないわね。私、柊二さんって  あれこれ考えるより即行動の人だと思ってたけど」 「!!……そっか……オレ、らしくねぇか……  サンキュ、義姉さん」 ***  ***  ***   兄嫁・まりえの後押しもあり   柊二は改めて倫太朗をゲットすべく行動を   開始したが……   柊二は今日も無人の倫太朗のデスクを見て   ため息をついた。   倫太朗から提出されている有給休暇願いの期日は   一昨日までだった。   倫太朗はここのところ食欲がなく、   顔色もすぐれなかった。   休みを取ってちゃんと診察して貰えと、   倫太朗へ指示したのは柊二だった。   急に体調でも悪くなったのか? と思い、   昨日から自宅の固定電話と携帯の方へも   かけ続け、   その双方へ留守電メッセージも残した。   しかし、今のところ返答はなし。   実家の方へもそれとなく探りを入れてみたが、   里帰りした様子もなかった。   つまり、倫太朗は行方が掴めなくなっているのだ。   午後6時になり、定時終業のベルが鳴る。   これから製薬会社のMRと打ち合わせが、   柊二と共に予定されている竹内が   出かける身支度で更衣室の方からやって来た。 「あぁ、竹内悪いが――」   もう、腐れ縁と言ってもいいほど、   付き合いの長い竹内は柊二がその全てを語らずとも   柊二の胸中を察したようで。 「ええ、S薬業さんの方は私が何とか話しをもたせて  おきますから、先に桐沢くんの所へ行ってあげて  下さい」   持つべきものは情に厚い友と、   自分以上に有能な部下だ。 「悪いな、頼んだ」 ***  ***  ***   倫太朗の部屋の明かりは消えていて、   ドア外から耳を澄ませても室内からは   物音ひとつ聞こえてこなかった。   試しにドアチャイムを長めに鳴らしてみたが、   応答もなし。   ため息をつき踵を返しかけて、ふと思いつき、   ドアノブを回してみてもドアは施錠されたまま   だった。   柊二はもう、なりふり構わず倫太朗の友人・知人の   類に電話をかけ。   夕方病院から出た時に満タンにした車のガソリンが   空になるまで、倫太朗の行きそうな場所を   手当たり次第に探しまくった。   で、そんな場所の心当たりも底をついた   夜半過ぎ――。   あと、一か所だけ行ってない場所がある事に   気が付いた。    今から高速をぶっ飛ばせば、   倫太朗が一番好きだと言っていた、夜明けの   景色を見る事も出来るだろう。

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