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第42話
「―― 無事に終わってよかったよ、
あちらにもご迷惑をおかけしなかったし」
静流の部屋で匡煌は上機嫌にワインを飲んでいた。
「……倫太朗君に何を言ったの?」
「見合いをした話があると言う事しか言ってない。
彼は勘が良いね。
直ぐに理解してくれたよ」
「有無を言わさなかったんでしょ?」
静流は匡煌のグラスのワインを飲む。
「俺は理解してくれるか? と、聞いた。
彼は理解したといった。
それだけの会話だ」
「柊二はきっと納得はしないわ」
タバコに火をつけた静流に
「やめるんじゃなかったのか?」と
笑いながら匡煌が言う。
「こういう時は吸いたくなるの」
「……柊二が納得しようとしまいと、
この縁談は成功させる。
神宮寺グループが後ろ盾になってくれれば
各務も安泰だ」
「結局は家の為?
だったら貴方が神宮寺と結婚したら?」
静流は匡煌を睨んだ。
所詮は『家の為』……
本人の気持ちはどうでもいいのか?
「お前は柊二の好きにさせておけとでもいうのか?
あいつは各務の人間だ。その三男坊が男に走った
なんて記事が出てみろ、いい笑いものだ、
各務の名も地に落ちる。それでも良いって言う
のか?」
「記事?」
匡煌もタバコを吸い始めた。
「嗅ぎつけた娯楽誌があってね、なんとかもみ消したが……
これ以上の醜態は防がなければならない」
「……」
ソファーにもたれかかった匡煌は天井に向かい
煙を吐き、笑い出した。
「桐沢君が女であったなら親父たちにも紹介できるし、
神宮寺から話が来ても断る事が出来たかもしれない。
だが残念ながら彼は男だ。子供が産めるわけ
でもない」
「お父様達は……ご存知なの?」
各務製薬の会長……
最近は匡煌に経営を任せてはいるが、
会社内部での影響力はまだ大きなものを
持っている。
「言えるわけがないだろ? 息子が男に走ってます。
なんて知ったら卒倒しちまう。柊二は何を言っても
聞く耳を持たない。だが彼なら、桐沢君が引いて
くれるのであれば柊二は何も言えないだろ?
あいつは一時的な感情で動いている。そんな感情は
必ず冷める。だったら……早く冷まさせるのが
兄としての役割だと思っている」
静流は苦々しくワインを飲む匡煌を見ていた。
「彼が引いても、柊二は追うわ」
「秋には婚約発表を行うつもりだ。式は来年早々に
でもと考えている」
「秋?」
「何事も早いほうがいい、何が何でも柊二を結婚させる。
結婚が決まれば……桐沢君を追うこともしないだろ」
匡煌はワインを飲み干した。
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