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第43話  嵐の前

  マンションへ帰ってきて、   無言でのまま俺を見る柊二にコーヒーを淹れる。 「飲むだろ?」   カウンターにカップを置き、   俺は換気扇の下でタバコを吸い始めた。 「……何故黙っていた?」   柊二の声は少し震えているけど俺は頑張って   普通に答える。 「何を?」 「オレが見合いをした事を知ったから……ここんとこ  様子がおかしかったのか?」   バレていた……   鼓動が速くなるが、   気付かれないよう無表情で柊二を見返した。 「おかしくなんかない。普通だ」 「いや、違った。平気じゃなかったんだろ?」 「結婚した方がいい」   換気扇を見ながらタバコの煙を吐く。 「そんな事は聞いてないっ」 「こんな関係、続けてもしょうがないだろ?   ちゃんと結婚した方が良い」   柊二は、タバコをもみ消して部屋に向かう   俺の手を強く握った。 「オレが結婚しても……平気なのか?」   手が震えている。 「平気だよ。元々割り切った大人の付き合いだった  んだし。こんな関係を止めるには良いきっかけだ」   そう。感情を殺すと決めたんだ。 「嘘だ、お前はオレを好きだと言った」   その言葉で心臓が大きく胸を打った。 「状況に流されちゃっただけだし……あ、俺、  明日も早いから寝る」   振りほどこうとするが、   柊二がさらに強く手首を握り締める。 「離して」 「オレを好きなんだろう? 匡煌に何を言われた?」   柊二が俺の手首を掴んだまま、   にじり寄ってくる。 「何も言われてない!」   俺を壁に押し付けた柊二は顔を近づける。   怒っている ――  「オレに惚れてるんだろ?」 「惚れてない」 「見合いの話を聞いて、ショックだったんだろ?」 「当然だと思った」 「何故、頑(かたく)なに嘘をつく?」 「嘘なんてついてない……ちゃんと結婚した方が良い」 「結婚はしない、倫太朗と一緒にいる」 「断る」 「オレの事が嫌いか?」 「大っ嫌いだ」 「嘘だ」   柊二は寝室へと俺を引っ張っていき   ベッドへ押し倒すと、   俺の体に覆い被さった。 「放せ! 退け!」 「何故嘘をつく?!」 「嘘なんてついてない!」 「オレの事が好きなんだろ?」 「嫌いだ!」   服を脱がそうとする柊二に抵抗する。 「もう、お前とはセッ*スしない!」   柊二は無表情のまま自分の上着を脱ぎ始め、   上半身裸になる。 「オレがしたい」   ベッドから起き上がろうとする俺を羽交い絞めに   押し付ける。 「だから、しないって!」 「意見は聞かない、オレはお前とセッ*スする」   抵抗する俺の手首を掴みネクタイで縛ると   ベッドの宮にくくりつけた。   本気で怒っている……!   けど、ここで折れる訳にはいかないんだ。   俺は生唾を飲み込んだ。 「放せ!」 「オレの体を忘れられるのか?」 「すぐに忘れる!」 「嘘だ」 「あんたの事も全て忘れる。俺はこれまであった事  すべてをなかった事に出来る!」   柊二が俺を見つめる。 「出会った事もか?」 「全てだ」 「させない、忘れさせない!   お前はオレの体を忘れる事なんて出来やしない」   俺の服を脱がし始める。 「しないって言ってんだろ?!」 「意見は聞かない、オレはお前と別れたりはしない」 「男に固執してもしょうがないだろ!   結婚して家庭を築け!」   柊二が俺の顔を両手で包む。 「倫太朗……なぜ、嘘をつく?   オレの為に身を引こうなんて考えてるのか?」 「そんな事……思ってない。  俺はあんたに惚れてなんて…」   柊二のキスで言葉を遮られる。   舌を絡められて話す事が出来ない。 「倫太朗……ずっと一緒だ……」 「い ―― やだ……っぁ」   両手の自由を奪われて抵抗する事が出来ない   俺の体を柊二が舌で嘗め回す。 「オレが触るだけでこんなに反応して、  これでも忘れる事が出来るのか?」 「や……めろ……っ忘れる ―― っ」 「倫太朗……もう、嘘をつくな」   柊二がいきなり俺のナカに指をねじ込む。 「い ―― った……っ、やだ……!」 「徐々に感じてくる。力抜け」 「嫌だ! しない……って言って……っる!」   奥にじわじわと内壁を擦りながら入り込んで来る   感触が、なじんでしまった快感を呼び起こす。 「ふ……っう……ぁ、あぁ ―― っ」 「これだけで、お前のモノが形を変えてきている。  感じるんだろ? 倫」   柊二が俺のモノを口に含む。   それだけで、俺は射精した。 「や、だっ!やめろ……っ」 「忘れさせない、これっきりなんて言わせない」   柊二が俺の身体を突き、俺はまた射精する。 「はな……せ!」 「一緒にいたい……倫、お前と一緒に居たいんだ」 「別れた方が互いのため、だ、放せ!」 「オレの名前を呼べ」 「いやだ」   柊二が身体を突き上げる。 「う……っく……ぅ」 「倫太朗……愛してる」 「……」 「頼む、本当の事を言ってくれ!」   深く突き上げられて、   身体が燃えるように熱い。 「や……だぁっ!」 「倫太朗……」 「嫌いだ……お前の事なんて ―― っ!」 「倫太朗……愛してる ―― っ倫太朗……」 「いや……っだ……っ」   何度も突き上げられて俺も柊二も   幾度となく射精し、   力果ててベッドに沈み込む。 「倫太朗……お前はオレのものだ……」   ネクタイを解かれ、   繰り返されるキスに俺もいつしか応じながら、   柊二に抱きついて眠りについた。   このままじゃ……   全てがおかしくなってしまう……。 ***  ***  ***   早朝5時。   隣に眠っている柊二を起こさないよう、   ベッドからそうっと抜け出て、シャワーを浴びる。      こんな関係、そうそう長く続けられる訳がない。   各務家の子息が男に入れ込んでるなんて   公になったら……。   各務柊二という男を世間の冷笑に晒したくない。   一般庶民ならまだしも、   柊二はいずれ匡煌さんの右腕になる人なんだ。   当然、世間の関心度だって高いだろうし、   風当たりも強いだろう。   男同士の恋愛なんて、格好のスキャンダルだ。   それだけは絶対避けなければいけない。   バスルームから出勤の身支度でLDKへ出ると、   朝食を用意して柊二が待っていてくれた。 「あ、起こしちゃってごめん」 「いや、オレも今日は朝イチで接待ゴルフだ」   最近、柊二はあのパーティーへ出席した辺りから   医師としての仕事の他に、各務製薬の幹部として   会合への出席やら接待が多くなっている。 「―― ごちそうさまでした。じゃ、先に出るね」 「おぉ、気を付けて」    柊二と”行ってきます”のキスを交わし、    出勤。    いつもと変わらない、そんな1日の始まりの    ハズだった……。 

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