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第4話 嫌と好は紙一重2

食事の邪魔をしてしまったんだから、絶対に怒ってるだろうな。 視線を下に落としてあれこれ考える。 その間、吸血鬼は一言も声を発さず、動く様子もない。 よく見ると血は俺の周りを囲んでいた脱ぎっぱなしの服たちにも着いていた。 冷たく張り詰めた空気が俺の周りを漂う。 俺はそのせいで中々顔をあげられなかった。 しかし、その数秒後か、吸血鬼はようやく動いた。 そして俺の方へよって来る。 さらに恐怖で満たされた身体は顔も上げられないまま、ただ吸血鬼が近付いてくるのを荒い呼吸をして待つしか出来ない。 心の中で近寄るなと叫ぶ俺の意に反して、白い手が俺の頬に触れる。 そしてその手は俺の顎を掴み、強制的に上を向かせると唇を重ねてきた。 【嫌と好は紙一重2】 ……二度目のキス。 一度目はこの前、初めて噛まれた時。 それは食事のためであって、今回もとくに意味はないのだと思う。 冷たい手に冷たい唇。 さっき噛まれたせいか、あの日のように身体が火照り始めていた。 嫌だななんて思っても吸血鬼の食事はすんでいないようだ。 軽くリップ音をたてて一度唇を離した後、吸血鬼は俺を押し倒すように深いキスを要求する。 「ンっ……」 俺に脱ぎ捨てられた服の山に体を預けてキスを受け止める。 キスと表現するのもなんだか変ではあるが、実際噛まれていても痛みはないし、吸われている感覚も唇では感じないのだ。 「…っ、ん……ぅ」 どんどん熱は体に蓄積され、そのおかげでキスだけで感じるという最悪の事態に。 吸血鬼はそれを分かっていないのだろうから、こんなにも激しく、執拗に、無駄に舌を絡ませてみたりしているのだろう。 正直言えば気持ちいいと思う。 けれど大半は怖いとか、離れてほしいだとか、恐怖の感情が渦巻いている。 「…ぅ……はぁっ…ゃ、…んっ」 自分の甘くなった声も恥ずかしく感じるが、今はそれどころではない。 吸血鬼は離れようともせず、ひたすら俺の唇を、いや口に溢れているであろう血を貪り続けている。 あぁ口の端から零れるのは血なのだろうか。 そのうち多量出血でくらくらし始めて意識さえなくなってしまったらどうしようなど思うが、考えたところで抵抗する術はない。 俺はじっとそのキスを受けるも、早く離れてほしいと願うのだが。 「ンっ…!?」 驚き、目を見開いた先には間近の吸血鬼。 そしてその吸血鬼は自分の冷たく白い手で俺のシャツのボタンを何時の間にか外して直に肌に触れたのだ。 冷たさと触れられてびくっと感じる体。 やはり吸血鬼の毒は即効性のように、そして異常なくらいに効いていた。 「ぁ……、ん、やめ……っ」 本格的に拒絶しなければならないと、心のなかで警鐘が鳴り響く。 しかし、俺は力が入らず、弱々しく吸血鬼の胸を押し返そうとすることしか出来ない。 その上吸血鬼は、腹部から胸部にかけてゆっくり肌の上で手を滑らせる。 こんなことをされると体がおかしくなりそうだ。 すでにおかしいけれど、なんというか本格的に欲を吐きたくなる。 この吸血鬼がいる前でそんなこと出来るわけもないし、しかしそれでも溜まっていく苦しさに堪えることも出来なさそうだ。 ようやく唇を離してくれた吸血鬼は、目の奥をぎらつかせて俺の瞳を覗く。 きっと見透かされているのだと思う。 俺が自分の性欲を処理したいと思うことなど。 けれどそう思わせたのは紛れもないこの吸血鬼だ。 見透かすと言うよりも、当たり前の反応なのだろう、俺のこの反応は。 そんなことも分かっていながら吸血鬼は俺の体を弄り続けている。 なんとも触れて欲しいところはギリギリで避けて、焦らして遊んでいるのだろう。 「ん…止めろよ……っ…」 熱く火照った体をこのまま弄られ続けるのは苦しい。 そのうちこいつの前で快感に溺れてしまうのではないかと恐れる。 静止を求めたが、冷たい手は今だに体を這っている。 俺の言葉に反応もしないし、止めるつもりもないのだろう。 「ぉ…おい!…聞こえて、んだろ…、っん!」 「…………」 軽く声を張ってみたが明らか吸血鬼は俺の言葉を無視している。 手はとうとう胸の突起へ触れて、掠るだけの刺激で声が出る。 だめだ、本当にここで止めてもらわなければと焦るのは俺だけ。 目の前の吸血鬼は気分が良いのか、ほんの少し笑みを浮かべている。 こんな男の体を触って楽しいのかは知らないが、餌が怯えているのは楽しいのだろう。 「んッ」 歯を食いしばって出来るだけ声を出さないように抑え込む。 そして飽きて帰ってくれるのを待つしかない。 そう思っていた矢先、吸血鬼は一番恐れていたことをし始めた。 「なッ…!うそだろっ…、」 まさか本気でやる気じゃないと思っていたこと。 その行動の手前の動作、吸血鬼は俺のズボンのベルトをカチャカチャと外し始めた。 「お前、…正気かよ…」 多分吸血鬼の麻酔が効いてなければこの瞬間俺は萎えていたに違いない。 なにせ女がやるような行動を男が、いやそれ以前に人間ではない吸血鬼がやっているのだから。 けれど、そいつの麻酔が効いてるおかげで俺のそこは熱と質量を持ったままで…。 俺は吸血鬼がベルトをはずし終える前にその手を掴んだ。 冷たい手…。 俺の手や体が熱くてそう感じるのかもしれないが、掴んだ手はとても冷たかった。 「や、止めて…くれないか…」 俺は小さな声だがしっかり言う。 「どうして」 そしてすぐに冷静な声が返ってくる。 「どうしてって…」 「気持ちいいんだろ。なのになぜやめろと言う」 「そ、そんなの…」 俺もお前も男だからだと言えばいいのだろうか。 吸血鬼はとても真剣な目で、それにとても不思議そうだ。 「こんなこと…男同士ですることじゃないって…」 俺は小さな声で呟いた。 するとほんの少しだけ静かになったが、次の瞬間には吸血鬼の笑いを堪える声が聞こえてきた。 吸血鬼は口を押さえて笑うのを抑えている。 「な!?何がおかしいんだよ…」 中々笑い止まない吸血鬼に俺は抑えきれずに言ってしまった。 すると赤い目は楽しそうに俺を見た。 「可笑しいも何も、ふふっ、可笑しいのはあんた自身だ」 吸血鬼は本当に面白そうに笑ってため息をつくとそう言った。 俺はその言葉の意味さえ理解出来なかった。 と言うより、俺自身のどこが可笑しいのだろうと、とりあえず自分の発言や行動を思い返す。 確かにハロゲンライトを大量買いしたことについては、はたから見れば可笑しいかもしれない。 でも身を守るために買ったんだし、しかもその敵自身から可笑しいだなんて言われたくない。 まぁ実際あのライトはこの目の前の敵には通用しないようだけれども。 「とりあえず、あんたの言いたいことは分かった。」 やっと笑い終えた吸血鬼は今までで見たことないような笑顔を見せた。 それはとても楽しそうで、とても…人間らしかった。 物珍しかったのか、身体が火照るせいなのか、俺は不覚にもその笑顔をじっと見つめてしまっていた。 「でも、もしそこに愛があったら『この行為』は正当化されるのか?」 吸血鬼はそう言うとまた俺に迫ってきた。 吸血鬼の顔を見つめていたせいかその距離が縮んだのに気付いたのは、吸血鬼の鼻が俺の鼻に当たりそうなくらい近くに来てからだ。 「おい、聞いてるのか」 「え…、あ、愛?」 「そう、俺達の間に愛があったらあんたが気にする『男同士』っていう壁は壊れるのかってこと」 「俺達…!?」 吸血鬼はさらっと言ったが、俺は聞き逃さなかった。 そしてもちろん訂正を行う。 「俺達って、だからそもそも、男同士で愛し合うってのは…、親子愛とか、友愛とか…?その類ならあり得るけど…男同士で」 「あんたは常識に囚われすぎてるんじゃないのか。」 「え?」 気付けば吸血鬼の目がとてもぎらぎらと輝いている。 月明かりに照らされたわけでもないのに、とても輝いていて、見ていると宝石を目の前に置かれたように目が釘付けになった。 いつからあんな目をしていたのか… 「常識だよ、男同士は愛し合わないなんて視野の狭い常識さ。」 何だろうか、吸血鬼の目に見惚れたように視線が外せない。 これも熱のせい? 「視野の狭い……、常識…、」 「そう、だから、男同士が抱き合うのも、愛し合うのも悪いことじゃないんだ」 「そう、だな……」 吸血鬼は不敵な笑みを浮かべてまた唇を近づけてくる。 ぎらぎら輝く瞳に吸い込まれてしまいそうだ。 しかし、まるでそれは催眠術にかかっているようで、頷いてしまいそうになる。 不思議な感覚。けれども、 「…ごめん、それは悪いこととは思わないけれど…俺はお前に対して、そんな目で見れない。これは常識じゃない、俺の気持ちだ…」 目の前の吸血鬼は、俺の言葉を聞いて目を見開いた。 ぎらついた赤い目は今だ明るいままだ。 そして、少し離れたかと思うと、何かぶつぶつ呟き始めた。 「……ぃゃ。はは」 その声はとても小さくてよく聞こえない。 「は…?何言って…」 「ははは、本当に面白いよ、あんた。」 吸血鬼はさらにその目をぎらぎらさせて、どちらかというと今は楽しそうだ。 「な、何が、面白いんだよ…」 楽しそうに、物珍しそうに俺を見る吸血鬼は、今度は小さく溜息を吐くとまた俺に近づいてきた。 俺は軽く身構えるが、吸血鬼は外しかかったベルトを完全に外し、さらにズボンをズラして下着から熱と質量の塊を取り出した。 「ちょっ、や、やめろって言ったろッ!ッんぁっ…」 しかし俺がその手を阻止する前に今度こそそれを握りこまれてしまった。 弱々しくもその冷たい手を掴んでやめさせようとするが、吸血鬼の擦り始めた手が与える快感が邪魔する。 「はぁ…っ…、んっ、……やめっ…」 「人間ってのは理性の脆い生き物だ。ここまで頑なに拒絶したあんたを称えて、俺がやってやる。だから今回は欲に甘えろ。」 「そっ…、そんな…こと……、のぞんでっ…ぁっ…」 熱い俺の体にひんやり冷たい手は心地よくて、さらにその手が俺のモノを握って上下に擦るものだから、体からは完全に力が抜けてしまった。 抵抗しようとしても快感が強くて思考をも邪魔する。 「ぁ、っ、…ん、やめっ…」 甘くなった自分の声が震えている。 自分でやるのと他人にされるのは違う。正直に言えばかなり気持ちいい。 「欲に素直になれば楽だ、」 「ぁあっ…やめっ……っんぁ…」 抵抗しようとしても身体がいう事を聞かないんだ。 上下に動かす白い手は強く、速くなっていく。 その中で羞恥も感じずに膨らみ、かすかに脈打ち始める俺のモノ。 「どうしても嫌なら俺のせいにすればいい、」 「はぁ…ぁ、…ゃ、やばいっ…あぁっ…」 もう限界が近いことを吸血鬼も分かっているのだと思う。 俺は必死になって声を抑えるものの、強過ぎる快感が声を漏らさせる。 「…だ、…だめっ…ぁあっ、…で……でる…からっ…」 制止を願うが、吸血鬼は止めない。 寧ろもっと強く擦ってくる。 「ぁああっ…ま、…まって…ぁぁっ…ゃだっ、やめ…っ」 「ふふ、そう、吸血鬼なんて化け物に犯されたとでも思えばいいさ」 「んゃ…だ、だめっ…ぁああっ…!」 我慢していたが、しきれなかった俺はその白い手に自分の真っ白な欲を吐き出してしまった。 どくどくと脈打ち、その欲を吐き続ける俺のモノ。 吸血鬼の手からも零れ落ちていく。 ああ、やってしまった。 そう後悔するも、しばらく体もそれにつられて痙攣するように跳ねていて、荒い呼吸を繰り返す。 「はは、溜まってたのか?」 「…ぅ、…五月蝿いっ、お前の…麻酔…のせい、だろうがっ…」 荒い呼吸の中、今度は顔に熱が集中するのが分かった。 「そう、そうやって俺のせいにしたらいい。あんたの理性は強かった。これは全部俺がしたことだから気にしなくていい。」 吸血鬼はそう言うとまた楽しそうな笑みを浮かべて、白濁に塗れた手を見せ付けてきた。 「…っ!やめろよっ…み、見せるなよっ…」 気にするなと言われても、記憶には自分が吸血鬼の手によってイかされたって事実が残るものだ。 吸血鬼は目を細めてニヤリと笑うと、その白濁のついた手を今度は自分の口元に持って行く。 まさかとは思ったが、吸血鬼は俺の欲が纏わり付く指を、俺の目の前で舐めた。 その光景を不覚にもエロいと思ってしまった自分の頭を殴りたくなる。 「はは、あんたはよく恥ずかしがるから虐め甲斐がある。そんな羞恥を感じてる姿を見ると食欲をそそられる」 俺はその言葉にびくりとし、背筋が凍りそうになった。 また噛まれるのはごめんだ。 しかし、吸血鬼はまた俺に近寄って来てその口の隙間から白い牙を覗かせる。 「ゃ、止めろ…」 俺が再び怯え震えるにも関わらず、吸血鬼はニヤリと笑って俺の口元に顔を寄せる。 やはり俺の抵抗も虚しく、その唇は重ねられて、ほとんど無理矢理口を開かされる。 本日二回目。合計三回目のキス。 またあの麻酔が体に回るとと、考えるだけで悪寒がした。 ぬるりと舌を挿し込まれ、大人しくそれをじっと受け入れる。 まだ熱が少し残る身体は、気を緩めるとまた感じてしまいそうだ。 出来るだけ麻酔を身体に回さないで欲しいと願うが、今回も執拗に舌や歯列をなぞる。 多少多めに血を吸ってくれてもいいから早く、と願うがゆっくり味わっているようだ。 「んっ…ふ、」 後で鏡を見たら俺の口元は真っ赤なのだろう。 自分の血に染められて…。 しばらくして吸血鬼は満足したのか、唇を離すと、立ち上がった。 「今日はご馳走様。久しぶりの食事は最高だった。」 俺は吸血鬼には何も答えずに、軽く睨んでいた。 「あんたは俺が嫌いみたいだけど、嫌よ嫌よも好きのうちっていう言葉を知ってるか?」 「知ってるけど、俺はお前のことなんて一生好きになんてならないからな」 「あんたなら本当に一生嫌いのままでいられるかもしれないな…。それでも好きと嫌いの気持ちの間にはほとんど壁なんてない」 月明かりに照らされた吸血鬼は白くて、目は相変わらず赤くて、やっぱり神話の中の住民を思わせる。 「今度来る時にはあんたを堕としてみせる。」 「…もう、来るなよ…」 そうそっぽを向いて呟けば、吸血鬼の気配は一瞬にして消えて、代わりに窓が開いていた。 こんな高いとこからどうやって出ていくのか、もちろん入って来るのも気になるが、吸血鬼はさっと幽霊のように消えてしまった。 突然現れ、俺に恐怖と快感を与え、幽霊のように消える。 とことんわけの分からない生き物だ、吸血鬼というやつは。 俺はまだ熱の残る身体になんとか力を入れて服の山から立ち上がる。 とりあえず軽く乱れた服を整える。 そして、深呼吸をし、振り向くと俺の血がべったり着いた脱ぎ捨てられた服の山が目に入る。 とりあえずここの服は全て洗濯するしかない。 俺は出来るだけ早く血を落とすためにその服の山ごと持ち上げた。 それを持って風呂場に向かい、それらを手洗いをするためにいったん風呂場に投げ込む。 バサリと落ちた服の山のように、俺の心も一気に力を無くした。 と同時にため息も漏れて、俺はズボンを抜いで下着だけになるとシャワーの栓を緩める。 服の山に熱い湯がかかると、服から流れる水には赤色が混じる。 俺はそれを揉み洗いするために腰を降ろすと嫌でも鏡に自分が映った。 そして真っ赤な口元が映ることを予想していた。 「え…?」 しかし、その予想は外れて、鏡に映る自分の口元には全く血はついていなかった。 これは、どういうことなのだろうか…。 口を開けて中を覗いてみても歯や、舌に血は付いていなかった。 そう言えば今日は血の味が全くと言ってもいいくらいにしなかった。 そう気付いてから、少し寒気がした。 もしかして、今日あの吸血鬼がキスをした時、食事をしていないというのなら…。 あのキスが食事の為でないというのなら…。 じゃ、何の為に…。 to be continued.

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