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春、新学期。
幼馴染みである友人らと駅で一緒になり、一時間ほど電車に乗り、郊外に悠然と広がる小中高一貫制の学園へ。
瀟洒な細工が随所に見られる、百年以上の歴史を誇る学び舎へ登校した隹 。
生徒用玄関前に張り出されていたクラス替え一覧を確認しに行く。
高身長で容姿が優れている隹とその幼馴染みらは華のあるグループとして学園内及び他校にまで知れ渡っていた。
いつも以上に騒がしかった生徒達は自然と静まり返り、昨夜から気になって仕方なかったはずのクラス替え一覧から彼らへ、気付いた者から次々と視線を移し変えていく。
左右に分かれて出来上がった通り道を先頭になって堂々と突き進む隹。
その後に続くのは幼い頃に火傷を負ったため眼帯で片目周辺の痕を隠している繭亡 、その双子の妹のセラ、そして全校生徒において最も長身である阿羅々木 だった。
「…………全員、一緒だ」
「おい、阿羅々木。俺の後ろにいるくせ一番に見つけやがって、もうちょっと探すの楽しませろよ」
「隹の動体視力が劣ってるのが悪いんでしょ」
「黙れ、セラ、誰彼構わずぱんつ見せやがって」
「見せてねーよ!」
「セラ、言葉遣いが」
ストライプシャツにネクタイ、ブレザー、学園指定の校章入り鞄をそれぞれの持ち方で携えて同じ教室へ。
その日は風が強かった。
「またぱんつ見えてんぞ」
「クソタラシッ」
「セラ、言葉遣いに気をつけろ、もう高校三年になるというのに」
「…………」
開け放たれた校内の窓から四月の薫りが惜しみなく運ばれてくる。
埃が目に入ってうぜぇ、と思いながら、隹は新しい教室へ。
そのとき。
また一段と強い風が吹いた。
教室の中へ進んでいた隹は一瞬不愉快そうに瞼を閉ざし、開眼一番、春の嵐に対し剣呑な視線を紡ごうとした。
窓際の席に着く彼にその視線はぶつかった。
カーテンが大きくはためき、女子生徒が金切り声を上げても一切反応せず、文庫本に視線を集中させている新しいクラスメート。
全く見覚えのない、男にしては綺麗な顔立ちをした彼に視線を奪われている隹を後ろに控えていた阿羅々木が大股で追い越していく。
微動だにしない彼の代わりに阿羅々木は窓を閉めた。
そこで、やっと、色褪せたページから彼は顔を上げた。
「阿羅々木」
「…………おはよう、式」
式 ?
式って、あれか、例の。
隣に立った繭亡に鞄を押しつけ、キーキー喚くセラを放置し、隹は堂々たる足取りで窓際の席へ。
寡黙な阿羅々木と言葉を交わしていた式の元へやってくると開口一番に。
「お前が男のくせに孕む突然変異の奴か?」
いきなり顎を強引に持ち上げられ、机に片手を突いた隹に不作法極まりない質問をブン投げられて。
「奇跡の同級生だな」
鋭い眼差しを紡ぐ眼に式の切れ長な双眸は露骨な悪感情を宿した。
口と同様に不作法な手を振り払うと真っ直ぐ隹を睨みつけた。
「自己紹介されなくてもわかる」
「ん?」
「お前が学内所構わず雄猿以上に本能のまま発情する交尾中毒の隹、そうだろう」
後に続いてやってきた繭亡は美麗な片目を見張らせ、セラは乙女みたいに瞳を輝かせ、阿羅々木は意味深に目を細めた。
式の素直な敵意に隹は不敵に笑う。
「まぁ、あながち間違ってない」
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