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3-5 最終話
「また尾行されたわ」
昼下がりにさざめく街路樹の元、カフェテラスでジンジャーアイスティーを一気飲みしたセラは舌打ちした。
「セラ、やめないか」
「ブン殴って蹴っ飛ばしてやろうかと思った」
「セラ。しかし、しつこいな。まだ諦めていないわけか」
眼帯をした見目麗しい繭亡はため息を押し殺し、その斜向かいで憤慨している双子の妹のセラ。
もう一人の同席者である阿羅々木は風に吹かれる落ち葉の行方を目で追った。
「…………もう五年経つというのにな」
「元気にしてるのかしら」
「連絡ツールが豊富なこの時代、年に一度届くエアメールだけが生存の証とは」
「隹の奴、再会したときにはぶっとばしてやる、式を攫うなんて、あのケダモノスケベ」
「セラ」
「…………攫うくらい愛してたんだろ」
瑞々しく色づいた葉が舞い落ちる。
空と地上の狭間を揺蕩う。
どこか懐かしく感じる風は誰かの思い出を運んでいるのか。
「お姫様は王子様と幸せになりました」
「わるい魔女はふしあわせになりました」
デッキテラスでブランコのようにゆっくり揺れるスウィングベンチに座って絵本を読んでいた式は苦笑した。
膝上に抱っこしていた彼女の絹糸のように柔らかな髪を優しく梳いてやりながら「魔女もきっと幸せになったよ」と物語の結末を勝手に捻じ曲げた。
湖の畔に佇む家。
石畳の街並みが美しい市街地から遠く遠く離れた静かな田舎だった。
歴史を物語る古城や礼拝堂、これといった観光名所も伝説もない森の麓にある集落。
そこから広大な牧草地をさらに突っ切った先にある草花に囲まれた緑豊かな水辺。
どこからともなく綿花が空中に漂っては太陽の日差しに透けて煌めいていた。
「わぁ」
風に吹かれた青葉が絵本のページ上へふわりと着地し、彼女は嬉しそうにそれを拾い上げた。
「風からの贈り物だな」
式の隣に座っていた隹がそう言えば。
「わたしからのおくりもの」
隹の両腕に抱かれていた、おくるみの中でスヤスヤと眠りにつく、まだひどく幼い彼にそっと翳した。
式の孕み筋を受け継いだ弟に。
「あの日と同じ匂いがする」
「え……?」
「お前と出会ったときも」
「……」
「こんな風が吹いていた、式」
かけがえのない守るべき結晶をそれぞれ胸に抱き、風が運んできた思い出にいざなわれて、隹と式はキスをする。
重ね合わせた唇は運命の味がした。
end
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