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第1話 プロローグ

  遠くにピアノの音色が聞こえる。   あれは ――   あのメロディーは……   そう、ビリー・ジョエルだ。   ビリー・ジョエルのオネスティ。 If you search for tenderness 君が「やさしさ」を探しているなら It isn't hard to find 見つけるのは難しくはないよ You can have the love you need to live 生きていくのに必要な程の「愛」なら  手に入れられるさ   彼が大好きだった曲、そして俺も……   不思議だ ―― と、倫太朗は思う。   情事に耽っている時、   何故かこの曲がいつも頭の中を流れる。   透明感のある歌声と、   夢見るような甘いピアノの調べ。   それがこの悪夢のような現実から、   意識を反らせてくれるのだ。   現実はというと、   こうして欲望に塗れた若い男に、   後ろから貫かれているのだから。   自分で望んだ事なのに……   自分なりにちゃんとケジメはつけたハズなのに。   そう簡単には捨て去れない思いが、   今も胸を締め付ける。 『あ ―― っ、ん、んぁ……』   ホテルの広い無機質な客室に響いているのは、   2人の吐息とベッドが揺れる音だけ。 「……んぁ、ん、んあっ、ああっあ、イクっ!」 『くっ……!』 「はぁ、はぁ、はぁ……」   上に乗っていた倫太朗はまだ荒い息のまま、   下にいた若い男から萎えた相手のソレを抜いた。 「んっ」   下にいた青年・ジミー・マイヤーは、   微かに身じろいだ。   倫太朗は少し汗をかいた体に何も身につけず、   寝室を後にした。   ジミーは未だベッドから起き上がれずに1人、   息を整えている。   すぐに倫太朗が水の入ったペットボトルを持って   戻って来た。   そして、ベッドに座ると、ジミーを優しく抱き起こし、   水を飲ませてから手早く衣服を身に着け始める。   俯いたままジミーは、か細く問う。 『……相変わらずツレないねぇ。  もう、行っちまうのか』   倫太朗は思わずため息を吐いた。 『―― それは、言わない約束だったハズ』 『なら、次は何時会える?』 『さぁ……明日かも知れないし、1週間後 ――   1ヶ月後、かも知れない』 『つまり?』 『なぁに? また今日はヤケに絡むね。夜通しヤりっぱ  だったのにまだ足らないのー?』 『だって……』 『時間が出来たらまたメールするから。  それまでは1人エッチで我慢してて。ね?』 『……ん』   2人は自然にキスをしたが、   ジミーは不服そうな表情のままだった。   このジミー・マイヤーという青年、   年の割りにはコミュ力に長けていて、   セッ*スもほどほどに満足いくものだったので、   サークルのオフ会をきっかけに、   体のみの付き合いを続けてきたが、   そろそろ潮時かも……と、   倫太朗は考え始めていた。

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