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玄関から始まる“こんな”生活《2》

「りぃ、明日になっても、何も関係は変わらないから安心して寝ろ。それまでこうしててやるから」 「なんか優しすぎで変。なんかあった?」 「俺だっていつも意地悪したいわけじゃないからな。りぃの反応が面白いから…つい、いじめたくなってしまうだけだ」 「それ、俺を抱きしめながら言うセリフじゃないだろーよ!」 不安だった気持ちも、こうやって少し会話するだけで落ち着いていくのがほんと不思議。 「俺だって嬉しいんだ……」 小声で言われた初瑪のその言葉に驚く。 「今まで欲しいものは少なかった。だから欲しいものが出来たら手に入れるまで努力してきて、何が何でも手に入れてきた。だが……」 初瑪がまた頭を撫でるのを再開する。 「人を欲しいとは思わなかった。身体だけ手に入ればよかったんだ。そんな薄っぺらい関係をお互い了承して過ごしてきたから、それ以上はいらなかった。むしろ邪魔だったとも言える。友達なんてものもあまり興味がなかったからな……」 そこまできいて、俺は初瑪にぎゅっとより抱きつく。 「でも違った。りぃだけは何かが違ったんだ。いつの間にか俺の一方的なものじゃなくて、お前の……りぃの心まで欲しいと思ってしまっていたんだからな。正直俺自身がこの変化に驚いているくらいだ。だから俺も嬉しいんだ……初めてなんだ、りぃ」 「初瑪……っ」 そんなこと思ってたなんて微塵も知らなかったし、初瑪にとって、そんな変化を俺が与えていたなんてわかったら、何故か嬉しくなる。 初瑪の初めてはもう全部ないんだろうけど…… “初めて”の好きになった人になれたのなら。 俺も“初めて”本気で好きな人だから。 「初瑪のこと、好きになってよかった」 そう思う。 「俺の“りぃ”になったんだから覚悟しとけよ」 「俺を誰だと思ってんの?天下の李絃様だよ?」 「調子乗るな馬鹿」 「じゃあ、これならいいだろ?」 初瑪に向かって笑う。 すっげー大好き。 好きってわかってからもっと好きになる。 初めてあったのはつい最近なのに。 不法侵入者だし、キスしてくるし、意地悪だし。 なのに優しくって、人思いで、頑張ってて。 あぁ、もうほんとに。 「初瑪も俺の“初瑪”なんだから覚悟しとけよ?」 玄関から始まった小説みたいな“こんな”生活も ───俺の大切な日常になっていくんだろう。 《第1章・完》

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