173 / 174
玄関から始まる“こんな”生活《2》
「りぃ、明日になっても、何も関係は変わらないから安心して寝ろ。それまでこうしててやるから」
「なんか優しすぎで変。なんかあった?」
「俺だっていつも意地悪したいわけじゃないからな。りぃの反応が面白いから…つい、いじめたくなってしまうだけだ」
「それ、俺を抱きしめながら言うセリフじゃないだろーよ!」
不安だった気持ちも、こうやって少し会話するだけで落ち着いていくのがほんと不思議。
「俺だって嬉しいんだ……」
小声で言われた初瑪のその言葉に驚く。
「今まで欲しいものは少なかった。だから欲しいものが出来たら手に入れるまで努力してきて、何が何でも手に入れてきた。だが……」
初瑪がまた頭を撫でるのを再開する。
「人を欲しいとは思わなかった。身体だけ手に入ればよかったんだ。そんな薄っぺらい関係をお互い了承して過ごしてきたから、それ以上はいらなかった。むしろ邪魔だったとも言える。友達なんてものもあまり興味がなかったからな……」
そこまできいて、俺は初瑪にぎゅっとより抱きつく。
「でも違った。りぃだけは何かが違ったんだ。いつの間にか俺の一方的なものじゃなくて、お前の……りぃの心まで欲しいと思ってしまっていたんだからな。正直俺自身がこの変化に驚いているくらいだ。だから俺も嬉しいんだ……初めてなんだ、りぃ」
「初瑪……っ」
そんなこと思ってたなんて微塵も知らなかったし、初瑪にとって、そんな変化を俺が与えていたなんてわかったら、何故か嬉しくなる。
初瑪の初めてはもう全部ないんだろうけど……
“初めて”の好きになった人になれたのなら。
俺も“初めて”本気で好きな人だから。
「初瑪のこと、好きになってよかった」
そう思う。
「俺の“りぃ”になったんだから覚悟しとけよ」
「俺を誰だと思ってんの?天下の李絃様だよ?」
「調子乗るな馬鹿」
「じゃあ、これならいいだろ?」
初瑪に向かって笑う。
すっげー大好き。
好きってわかってからもっと好きになる。
初めてあったのはつい最近なのに。
不法侵入者だし、キスしてくるし、意地悪だし。
なのに優しくって、人思いで、頑張ってて。
あぁ、もうほんとに。
「初瑪も俺の“初瑪”なんだから覚悟しとけよ?」
玄関から始まった小説みたいな“こんな”生活も
───俺の大切な日常になっていくんだろう。
《第1章・完》
ともだちにシェアしよう!