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朔の嫌いなもの

朔の嫌いなもの 「...出た」 朔がキッチンですっごい低い声出すから、驚いて見に行った。 そこには黒くて謎の光沢がある物体がでん!とキッチンの床に鎮座していた。 「ああ、ゴキ〇ー」 そいつの名前を言おうとした途端、睨まれ口を噤んだ。怖い。 「その名を言うべからず...」 「べからず?!」 口調までおかしくなってしまっている。お察しの通り、朔はゴキ〇リ、というより虫全般が大嫌いだ。虫が出ようものなら、家中を逃げ回りありとあらゆる殺虫剤を屋内に撒き散らすほどなのだ。 最近はマシになったと勝手に思い込んでいたけど、ダメみたい。 「譲...あとはよろしく頼んだ」 「え、や、やだ」 「っ、2階に避難してるから終わったら呼んでくれ」 「ちょっ」 颯爽と逃げ出そうとする朔の腕をつかみ引き戻す。 「俺だって得意ってわけじゃないんだから...手伝ってよ」 「俺がいても邪魔なだけだから、な?」 「ひとりにしないでってば」 もう、どんだけ慌ててるの。朔の目はくるくると回っていて、早く逃げ出したいのが良くわかる。でも、そうはいかない。 「おれひとりで戦ってさ、逃げ出されて家の中にずっといられる恐怖、味わいたい?」 んぐっと変な声を出して言葉に詰まる姿が面白い。とことんまで虫嫌いだ。 「...わかった、手伝ー......あ」 相当な時間を要し、手伝うに至った朔がくるりと踵を返し階段の方に逃げた。 突然の裏切りに呆然とする。ひとりでこいつの相手をするかと思って、仕方なく振り返ったら 「ひっ、ぎゃあああ!」 朔が逃げ出した理由がわかった。そうだった、こいつら飛ぶんだったんだ、と。 ちなみに、殺虫剤で退治しようとしたら運悪く、切らしておりましたとさ。 fin

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