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悪戯
『おとうさんへ
いままでありがとう。ぼくはいえでします』
「なにこれ」
勉強してたけど集中力が切れて、なんの気なしに小学校の頃使ってた教科書を開いた。
ひらひらと手元に落ちてくる紙を見ればおかしなことが書いてあった。
「家出します?おれ...そんなことしたっけ?」
記憶の限り家出なんてしたこと...ない、ような。そんな度胸なんて持ってないし、やっぱり書いただけなのかもしれない。
「あ!」
ぴこん、と頭の中にある悪戯が浮かぶ。さすがにこの紙は使えないけど、テーブルの上に家出しますって書いておくという悪戯だ。
本気ではしないからクローゼットかなにかに隠れておけばいい。
さっそくメモ用紙に悪戯を仕掛けていった。
『朔へ
愛想が尽きました。いままでありがとう、さようなら』
朔が帰ってくる時間を見計らってリビングのテーブルに紙を置き、自分はクローゼットに隠れた。
「ふふっ」
笑いが止まらない。朔が慌てて部屋中を探し回る姿が目に浮かぶ。
「ただいま」
ルーバークローゼットの隙間から朔がリビングに入って来るのを見つめる。朔はおれの返事がないことが不思議そうだ。
「...なんだこれ?」
テーブルの上にある紙を見つけたみたいだ。どういう反応を示すのかなとドキドキする。
「...」
と、ワクワクしてたのに、朔は慌てることなく辺りを見回している。
あれ、驚いてない?なんで?
「......え」
ぱっと振り返った朔と、目があった気がする。隠れなきゃとクローゼットの奥の方逃げ込む。
「...あ、」
「みつけた」
ガラガラと音を立ててクローゼットが開いて奥にいたおれは引っ張り出された。
「なにしてんだ、このいたずらっ子は」
耳たぶ触られるの苦手なこと知ってて触るのはずるい。
「ひゃ、ん...ちょ、っと...なんでおれのいるとこ分かったの?」
「覚えてないか?譲が小学校の時もこうやってテーブルの上に紙置いて悪戯したぞ?」
うん、知ってる。その紙見たからいま悪戯してる訳だし。
「仕事から帰って来たらいないし、家中探し回って、家の外まで見に行って。もう警察に届け出そうかなって思ってた時にクローゼットから寝息が聞こえたんだ」
「ここの、クローゼット?」
「そう。全く同じことしてる」
デコピンをかまされ、おでこを押さえる。おれ小学生の頃から頭変わってないんじゃって不安になった。
「で?愛想が尽きました、とか書いてあったけど?」
「それは、特に意味はないです...」
「いやいや、どの辺が嫌なのかしっかり答えて貰わないとな」
「あ、あ...もうしないから許して...」
「だーめ。多少は驚いたんだから責任取れよ?」
その日はソファーでイタしまして、翌日腰が痛くて動けなくなりました。
fin
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