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第5話 兄の恋情
「ごめん。もう君とはつき合えない。別れて欲しい」
大学の、ひと気のない裏庭で、典夫は彼女に別れを告げた。
彼女は目に涙をいっぱいためて、かぶりを振る。
「いや。典夫くん。どうして? あたし、別れたくない。別れるなんて言わないで……!」
「ごめん……」
典夫はもう一度そう言うと、その場を立ち去った。
歩きながら典夫は思う。
分かってたことなのに。結局こうなることは。
どんな女の子とつき合ったって決して満たされることはない。
典夫は今まで何人かの女の子とつき合ったが、どの子とも一か月もったことはない。
典夫が好きなのは……狂おしいほどの恋情を抱いているのは、実の弟、知矢なのだから。
でもこれは許されない想い。
なのに、あいつは、知矢は、無邪気にオレに甘えてくる。
大きな瞳でオレを見つめてきて、小さな唇でオレを呼び、華奢な体で抱きついてくる。
昨夜、知矢が抱きついてきたときの感覚が蘇った。
甘い香り、暖かな体温……。
オレはクモの糸のような理性を繋ぎとめて、あいつに襲い掛かってしまいそうな自分を抑えるのに必死だった。
「マジおんなじベッドで眠るのは、やめにしなきゃいけないな……」
いつもそう思うのだが、すがるような知矢の瞳や、半泣きになっているところを見ると、つい甘やかしたくなってしまう。
突き放し切れない。あきらめきれない。
……どうして、オレたちは兄弟なんだろう?
せめて血の繋がりがなければ、思いを告げることができたかもしれないのに……。
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