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第7話 嫉妬②
家までの道、気まずい沈黙のもと典夫と知矢は肩を並べて歩いていた。
不意に知矢が口を開いた。
「お兄ちゃん、さっきの……見てたの?」
「……ああ。のぞき見するつもりはなかったんだけど。声が聞こえてきたから、悪い」
「そんなことはいいんだけど……、お兄ちゃん、あの――」
「おまえ、もてるんだな。結構かわいい子だったじゃないか」
幾人もの好きでもない女性と付き合ううちに、いつの間にかうまくなってしまった作り笑顔とともに典夫は明るく、弟へ言った。
「……そうかな? 僕はあんまり好みじゃない」
知矢は少しムッとしたように答える。
「……付き合ううちに好きになることもあるんじゃないか?」
言いたくはないのに言葉が先走りしてどんどんドツボに、はまっていく。
「お兄ちゃんは、そんなにあの女の子と僕をくっつけたいの!?」
今度ははっきりと声を荒らげる知矢。
そんなはずない。
典夫は心の中で悲痛な思いを叫んでいた。
いつまでも知矢、おまえにはオレの、オレだけの傍にいて欲しい。
できることなら部屋に閉じ込めて、誰にも見せたくない。
誰にも渡したくない。
でも、そんな思いを抱くのは罪で、いつかはおまえはオレから離れて行ってしまう。
典夫は先ほどの少女に激しい嫉妬を覚えながらも、殊更明るく返した。
「そうすれば、おまえも兄離れできるだろ」
「お兄ちゃんのバカ!!」
そう叫ぶと、知矢は典夫の脚を思い切り蹴とばして、いつの間にか着いていた家の中へと入っていった。
「……ってー。知矢の奴。思い切り蹴りやがって」
でも、典夫が本当に何よりも痛かったのは……心だった。
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