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第12話 弟に触れたくて

 大学の学食で、典夫はコーヒーを飲みながら、知矢のことを考えていた。  昨日、知矢が女の子に告白される場面を目撃してしまってから、典夫の気持ちはざわざわと嫌な感じに乱れていた。  昨日の知矢の様子だとあの女の子とつき合うことはなさそうに思える。  しかし、だからといって安心はできない。  知矢は魅力的だ。  かわいらしく中性的な美貌の知矢だが、そういうタイプの男が好きな女の子も少なくないだろう。  またいつ女の子に告白されるか分からない。なんせ高校へ行っているあいだの知矢のことは典夫には知るすべがないのだから。  年上の女に誘惑されたりしないだろうな……。  考えれば考えるほど気持ちは乱れ、ざわめく。  今はまだ甘えん坊で、オレにくっついてばかりいるけれども、あいつも少しずつ大人になって兄離れしてしまう日が必ずやって来る。  怖い夢を見たから、怖い動画を見たから、と言ってオレの隣にもぐり込んでくることもなくなってしまうだろう。  自分でも矛盾していると思う。  知矢に兄離れしろと言っておきながら、知矢がオレから離れて行くことを恐れてもいる。  でも本当の本音は、兄離れなど永久にして欲しくない。  いつまでもオレの傍に置いておきたい。  知矢が女と付き合うなんて、想像するだけで嫉妬で変になりそうだ。  あいつが他の誰かのものになってしまうのなら、それくらいなら、いっそオレがあいつを……。  そこまで考えて、典夫はハッと我に返った。

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