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第13話 弟に触れたくて②
「だめだ。オレはなにを考えてるんだ? そんなことしたら知矢をひどく傷つけるだけじゃないか」
兄弟という事実はあまりにも重い枷である。
とても近くにいるのに決して触れてはいけない、愛しい人。
思わず頭を抱えて悩み苦しんでいると、上から明るい声が降ってきた。
「典夫、なにしけた顔してるんだよ?」
友人の達彦 だった。
「別に、しけた顔なんかしてねーよ」
「してたよ、こうどーんよりと暗いっていうかさー。なに? 調子悪いの?」
達彦は典夫の前の席にどっかりと座った。
「別にー。達彦はいつも絶好調そうだな」
「まあね。なあ、典夫、気分がパッとしないときは飲むに限るぜ。……ということで、今夜M女との合コンがあるんだけど、参加しねえ?」
「しない」
「そんなつれないこと言わないでさ。典夫王子様が参加すると女の子の食いつきが違うんだよ。な、M女だぜ? 美人でお嬢様が多いって評判のー」
テーブルに頭を擦りつけんばかりにしてお願いしてくる友人に、典夫は折れた。
別に合コンに惹かれたわけではない。
ただ騒がしい場所へ身を置いて酒を飲んで、少しでも弟への劣情をまぎらわせたかっただけだった。
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