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第14話 酔っぱらった兄

 ……お兄ちゃん、遅いなー。  知矢はリビングのソファで膝を抱えて座りながら、壁にかかった時計を見つめていた。  もう十一時を回っているのに、典夫が帰ってこない。  今日はアルバイトの日でもないし、こんなに遅くなるはずがないのだが。  母親は友達と一泊旅行へ行っており、父親からも残業で終電ギリギリで帰ることになりそうだと電話があった。  だから知矢は少々心細い思いで、兄が帰ってくるのを待っているのだ。  スマホに電話をしても出ないし、メールをしても返事が来ない。  もしや事故にでも遭ったんじゃ……。  不安になり、もう一度スマホに電話を掛けようとしたとき、玄関の鍵が開く音がした。 「お兄ちゃん! おかえりっ」  知矢は文字通り飛ぶように玄関に典夫を迎えに出た。 「ただいまー、知矢ー」  兄はしこたま酔っていた。  足元もおぼつかなくて、靴を脱ごうとしてふらついている。 「お兄ちゃん、危ないよ」  華奢な体で典夫の体を支える。  兄の体からは酒と香水の匂いが強く香り、知矢は少し腹立たしい気持ちになった。  僕がさんざん心配してたのに、呑気にお酒なんか飲んでたの? それも女の人といっしょに?  考えるとムカムカする。  そんな知矢の気持ちも知らずに、千鳥足の兄は上機嫌だ。 「もうお兄ちゃん、ちゃんと自分の足で歩いてよー」 「分かってるって」 「分かってないー」  兄と密着する格好になっているが、こんな状況ではうれしくない。  それにしても、と知矢は訝しく思う。  お兄ちゃんがこんなに酔っぱらうなんて珍しいな。  典夫は酒に強い。  時々父親と晩酌しているが酔いつぶれるのはいつも父親のほうで、兄は顔色一つ変わらない。  なにかあったのかな……?  心配と腹立たしさと二つの気持ちが知矢の中で複雑に混ざり合う。  兄を支えたままなんとかリビングまでやって来たが、華奢で体力がない知矢にはそこまでが限界だったようだ。  知矢の足元もまたふらつく。 「わっ……!」  そしてそのまま二人してソファの上へと倒れこんでしまった。

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