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名前で呼んで
2018/04/21参加
お題
・渇望
・call my name
・ゆらゆら
"I like hearing your voice call my name"
そんな歌い出しから始まる、今度の新曲。
「珍しくラブソングなんだね」
他のメンバーからそう言われて、はてそうなのか?と自問する。
あの声に、名前を呼んで欲しい。
バンドの、ではなく、本当の自分の名前で。
渇望する気持ちが、そのまま歌詞に漏れ出てしまった。
友達同士なんだし、そんなちっぽけなこと、さっさとお願いしてみたらあっさり叶うことなのかもしれない。
だけどその、ちっぽけなお願いがなかなか言い出せないのだ。
その相手に対する感情が、loveなのか、likeなのか?と問われたら、間違いなく前者なわけで。
…ということはやっぱりラブソングになるんだな。
そしてその相手は、同性なわけで。
一歩先に進む気なんてさらさらない、"仲の良い友達"というポジションに甘んじるより他にない。現状維持が精一杯だ。
気味悪がらせたくない、怖がらせたくない。今までと同じように、隣で笑っていて欲しい、ただそれだけ。
それが叶うなら、何て呼ばれようと大した問題じゃない。
行き場のない不毛な想いを包帯か何かでグルグル巻きにして見えなくして真空容器に入れて蓋をして、心の奥深くに閉じ込めてきたつもりだった。
"仲の良い友達"の仮面を被って、一番近くに無遠慮に居座ってきた。
「でも…もう限界、かも」
ぼそっと呟いて、ペンケースにつけられた、ご当地ゆるキャラのマスコットがついたキーホルダーを指でつつく。
「何それ?キャラに合ってないんだけどw」
メンバーに茶化された。
「るせぇよ」
ゆらゆらと揺れ続けるマスコットを眺める。
似合ってなくて悪かったな。あいつの出張土産なんだよ。
じっと見ていると、マスコットはあいつに似てなくもない気がしてきたし、ゆらゆらと揺れ続ける様は、まるで自分の心の中のようだ。
友達だ、それ以上は望まない。
…そんなわけないだろ。
うす汚れた、自分勝手な欲望を、なんとか抑え込もうとしているだけ。
傷つけたくない、傷つきたくない。
ああ、でも。
想いを告げたい、触れたい、触れられたい、
一つになりたい…
「あーあーあーーー!!!」
つい頭をよぎってしまった不埒な考えを即座に打ち消し、ストレッチを始めた。
「体ほぐれたらスタジオ入ってくれる?次ヴォーカル録るよ」
「あいよ」
なんだか無性に会いたくなってきた。
録りが終わったら、飲みに誘ってみよう。
酒の力を借りて、勢いで『名前で呼んで』って言ってみようかな。
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