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Crack up!
今年30周年を迎えるビッグユニットの曲からイメージして書いた話。
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RRRRR…RRRRR…
またか。
いつものように無遠慮に鳴り響く携帯電話を、握りつぶしたい気分で引っ掴む。
時刻は26:30。アイツからのコールを知らせる着メロ。
「…もしもし…」
寝起き丸出しの声で言ったが、アイツはそんなこと全然気にもとめていないようだ。
「あ、透史?今から出てこいよ」
屈託無い明るい声で、何を言い出すやら。
「匠…?どこにいんの」
「○○駅の近くの『ROSY』ってバー、知ってんだろ?そこ。すぐ来いよな!」
…何故断らない、俺…。
数分後にはアクセル全開で指定された店へと向かっていた。
匠とは3年前、予備校で知り合った。
匠はそのときすでに3浪してたんで、俺より二つ年上だ。
だから、いつもの誘いを断れない、と言うのではない。
「匠…」
店についた頃には、匠はすっかり出来あがっていた。何人かの男女と楽しそうに騒いでる。俺は、何故呼ばれたんだろう…?
「お、透史!こっち来いよ」
やっと俺の存在に気づいた匠は、上機嫌で手招きする。
仕方なく言われたままに席につく俺。
だけど、なんか居場所が無い。
ジャンケンキスゲームだの、王様ゲームだの、かってに盛り上がればいいじゃないか。
なんで、俺を呼ぶんだ。
「透史ィ、送って…」
その理由はこれだ。
要するに、俺は匠のアッシーなわけ。
すっかりどんちゃん騒ぎもおさまって、一人、また一人と帰って行く。
俺と匠だけが残った。 匠は真っ赤な顔でテーブルに突っ伏している。寝てるのかもしれない。
――酔うほど飲めないくせに。知ってんだぞ。
「匠…帰ろ」
口には出さず、今日も俺はただのいい人を演じきった。
それから数日、匠からの呼び出しがぷっつりと途絶えた。
何があったんだろう…3日と開けずに出動の要請がかかったのに。
でも、こっちから電話をする気にはなれなかった。いや、したかったが敢えてしなかった。
俺にだって、薄っぺらなプライドぐらいあるんだ。
連絡が途絶えて一週間が過ぎた。
いい加減、気になるというより心配になってくる。
あの性格だから、何かの事件に巻き込まれたりしていないか。
ろくなもの食べずに栄養失調にでもなってたりして…
俺の方が参りそうだった。そんなとき、あのメロディが流れてきた。
匠からのコール。
「もしもしっ?!」
俺がものすごい気迫で言うと、匠は少し戸惑った風だった。
「…透史?久しぶり!俺さ、温泉行ってたの。土産あるから来いよ」
…はぁぁ。一気に疲れが…。 呼ばれるまま、匠の部屋に行った。
匠の部屋は相変わらず、女の手が入っているのが丸わかりの、小奇麗でちょっとかわいい部屋になっていた。
統一性が無いのは、複数の手が入ってるから――?
匠は相変わらず何も考えていないような笑顔で、ベタな土産―温泉饅頭―を俺にくれた。
俺の顔にそれが出ていたのか、匠は少し不機嫌な顔になった。
「なに。透史、甘いものキライなん?それとも…他に何か欲しいモンあった?」
ごくん、と唾を飲む音が、体中に響いた。他に何か欲しいものと言えば、一つしかない。それ以外には何も要らないのだ。
「匠…」
「へ?」
相変わらずの白痴八方美人め。今から言うことを聞いたらどんな顔をするんだろう。
「俺のものに、なりなさい。」
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