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可愛いタヌキは誘われたい

 もうすぐ彼が帰ってくる。  寒い寒い夜道を、そこそこ長い道のりを歩いて帰ってくる。  でも今日は、帰ってきたらすぐに飲めるように準備しておくココアも用意していない。  いつもなら一緒に入ろうと待っている風呂にも、さっさと一人で先に入った。  そして今、早々に寝床に潜り込んでいる。    がちゃり。  ドアの開く音がして、聞き覚えのある足音が聞こえてくる。足音はのそりのそりと次第に近づいてきて、やがて止まった。  俺は彼を背にした状態で、壁に向かって狸寝入りを決め込んでいる。 「ただいま」  遠慮がちなボリュームで声をかけられたが、狸寝入りは解かない。  すると足音が遠のいていってしまった。  えっ、待ってよ。  そんな一言で諦めるの?  今日こそは…今夜こそは、たまには、あんたから誘って欲しかったんだよ。    思わず起き上がろうかとした時、また足音が聞こえてきた。  その足音は止まることなく、やがて俺に跨って、あんたは言ったんだ。ココアよりも甘い声で。 「ただいま、可愛いタヌキくん」

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