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朝日を浴びながら、君としらす丼を

まだ日の昇りきっていない淡い空の色の中、港に並ぶ漁船。 夜明けと共に海の男達ががやがやと漁の準備を始める頃、息を潜める二人がいた。 「テメエがさっさと帰らないからこんなことに」 「は?あんたがグズグズもたもたしてたからじゃないか」 「あん?」 深夜、無数に並ぶ漁船のひとつに無断で乗り込み、一心不乱に腰を振っていた男と、夜通し突かれ続けた男。 「一回イくのにどんだけかかってんの、この遅漏」 「るせぇよ!さっきまでアンアン可愛くよがってたテメエはどこ行っちまっ」 頬骨に拳がめり込む音。 水平線から、じわじわと朝日が顔を覗かせ始めた。水面がオレンジに輝くのを見ていると、こんな状態でなんだが心が洗われるような気がした。 先に出ていた漁船が戻ってきて、港は一気に活気づいた。今なら、不適切な目的で船を使っていた男子高校生が紛れても気づかれないかもしれない。 戻ってきたのはしらす漁船だった。 目の前で出荷されていくしらすを見ていると―― 「……腹減ったな」 「うん」 よろよろと漁港に併設されている食堂へ向かう。一仕事終えた男達に交じって、別の意味で一仕事終えた二人は、やはり場違いだった。 水揚げ後間もないしらす丼を注文し、二人で物も言わずにかきこんだ。東向きの窓から、容赦なく陽が差し込んできた。 「なんで俺なの」 「え」 「なんで俺を抱い」 「わーっ!」 慌てて向かいの男の口を押さえる。 「返事によっては、こっちにも考えがあるよ」 「か、考えって」 「お前に犯られたって言いふらす」 「ちょ、おま」 校内でも評判の荒くれ脳筋ヤンキーのことだ、さしずめ女に相手にされず、たまりにたまった欲を男相手にぶっ放した、そんなあたりだろう。 こんな奴、その気になればすぐにでも潰せる。腕力でなく、社会的な意味で。 こっちは生徒会長を務め、教師からの信頼も厚い。こいつがどんなことを言ったって、100人中100人がこっちの言うことを信じるだろう。 「もう一度訊く。何で、俺だったの?」 「……それ、は……」 大きな図体のはずの男が小さくなって頭をかいている。やるだけのことをやっておいて今更何を照れているのか、と冷ややかな視線を送っている。 「言いたくないならいいけど、その代わり」 「……きで」 「何?聞こえない」 「ずっと、その……お前のこと、好きで」 体も声も消え入りそうに小さくなってしまった男の答えに唖然となった。 「苦し紛れに下手な嘘つくなよ」 「嘘じゃねーし!」 声のボリュームが戻り、周囲の視線が刺さる。 「嘘じゃねーよ……ずっと声、かけたかったけど、でも」 言いたいことはわかる。生徒会長とヤンキー、声をかけようにも住む世界は遠く、接点がない。 一晩中なにがなんだかわけもわからず体を揺さぶられて、貫かれて、全身ガタガタだし、意思も無視してレイプのように犯しておいて、何を言っているんだ。 だけど、怒りや憎しみが湧いてこないのを不思議に思っていたところだ。 無意識のうちに、本能で、愛情を受け取っていたのかもしれない。 ……なんてことを一瞬だけ考えて、馬鹿馬鹿しいと鼻で笑った。 「そんなこと誰が信じるか。あんなことしておいて」 「うっ……」 「バラされたくなかったら」 そこで言葉を切ってしらすを口に運ぶ。向かいの男はしらすではなく固唾を呑んでいる。 ひとしきり口の中のしらすを堪能した後、ようやく続けた。 「また抱きなよ、俺のこと」 「うん、え、いや、は?」 予想斜め上の回答に目を白黒させるヤンキーと、それを満足そうに見ながら、しらす丼を食べ進める生徒会長。 「捕れたてのしらす、美味しいよね。クセになりそ」 「うん、えっ、あァ?!」

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