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第202話

「征治さん、ありがとう。今日、言ってくれたことは全部嬉しい。急には変われないかもしれないけど・・・僕を縛り付けていた鎖が緩んで、息がしやすくなった気がする」 少し荒療治かと思っていたので、その言葉を聞いてホッとした。 素直な性格の陽向なら、きっと気持ちが届くと信じてはいたけれど。 「だけど、タトゥーは彫らないで。僕、大丈夫だから。 本当はね、いつも少し不安だった。征治さんなら大丈夫だと思って、会っている時もタトゥーを隠さずにいたけど、これを見た征治さんはどう思っているんだろうって。 やっぱり少しは僕の過去に嫌悪感を持つのか、必要以上に僕に対して憐憫の情が湧いてしまうのか・・・でもそれは仕方がないかって」 そこで、陽向はふっと笑った。 「でも、さっきの王子様のキスで悪魔の呪いは解けたから。今日から、僕のうなじにあるのは征治さんへの愛の証にちゃんと意味が変わったから」 「本当?俺、タトゥー入れるの、別に平気だよ?」 「ううん。本当に大丈夫。征治さんの気持ちだけで十分」 そう言うと、抱きつく腕に力を込めた。 「征治さんの言葉はいつも僕に力をくれる。・・・子供の頃から、ずっとそう」 「ふふふ、陽向、シャツがシワになっちゃうよ?」 「ん・・・後でちゃんとアイロンかける。征治さん・・・大好き」 そう言いながら、征治の首筋に鼻先を擦り付けてくる。 その甘える仕草が可愛くて、征治も片手で陽向の腰を抱き、反対の手で陽向の後頭部を撫で、柔らかい髪に鼻先を埋めた。 「大好き」 もう一度そう囁かれて、愛おしさがつのる。 「俺もだよ」 そう言って耳にキスをすると、陽向の上半身がスッと離れた。 しまった。 耳への接触は性的な感覚を引き起こすこともままある。嫌だったか。 「ごめん」と謝ろうとして、違ったと気が付いた。 ほんの10センチほど先にある陽向の両目が、深い情愛のような色を、いや、それ以上の熱を湛えている。 潤んだその大きな瞳に見つめられて、吸い込まれてしまいそうな錯覚に陥った。

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