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第201話

「でもね」 抱き込んだ陽向の顔を横から覗き込みながら、語りかける。 「色々言ったけど、本当は理屈じゃないって分かってるよ。『ただ怖い』という感情からそう簡単に逃れられないのも。 俺だって人間不信に陥っていた時は、全く無関係の他人すら訳もなく怯え、傷付けられまいとバリアを張っていたんだ。 だけど、陽向は誰にも言えなかった過去を俺にだけ打ち明けてくれた。だから俺は俺なりの考えを陽向に伝えたかった。 でもだからと言って、無理にストールやマスクを外せと言うつもりはないよ。陽向の好きでいい。 ただ、長い髪やマスク、ストールを防護服の様に纏っている陽向が息苦しそうに見えて。非道な奴らのせいで、その防護服が陽向のデフォルトになってしまっているのが悔しかったんだ」 陽向を抱きしめていた腕をほどき、ティッシュボックスと今日買ったシャツとサングラスの入った紙袋を持ってくる。 ティッシュで陽向の涙を拭ってやってから、オレンジのシャツを羽織らせる。 「陽向は知ってた?Tシャツだと襟首から覗いちゃうけど、普通の襟付きのシャツなら、ほぼタトゥーは見えないんだよ?こうやって、接近して覗き込んだりしない限り」 そう言って、前から首の後ろを覗き込むようにして首筋にチュッとキスをした。 「だけど、こんな状況、俺以外とはならないよね?」 こくりと頷く陽向の頭をくしゃりと撫でる。 シャツのボタンを留めてもう一度鏡の方を向かせ、前髪を軽くかき上げ、サングラスをかけた。 「ほら、見て。いつもの陽向と随分違うだろう?それに、とても似合ってる。すぐに顔を晒せるようになれなくても、こんな風に変装?する方法だってあるんだ。 夏にマスクを着けて俯いているより目立たないし、ずっと視野が広がるだろう? だけど、これだって強制するつもりはないよ。ただ、こんな方法もあるって見せてあげたくて、プレゼントしたかったんだ。 ごめんね、これを選ぶとき、ちょっと強引だったかな?」 陽向が首を振る。サングラスを外すと征治の方へ向き直った。 「僕、征治さんがそこまで考えてくれてるって思ってなくて・・・ 僕が家の中ばかりに居て、見た目も地味すぎてつまらないのかなって・・・」 「まさか。ねえ、陽向。俺はね、二人で焼きそばをつついているだけでも、さっきみたいに並んで皿を洗ってるだけでも充分幸せなんだよ」 「ごめんなさい」 そう言ってから、少しモジモジしていた陽向が、両腕をおずおずと伸ばしてきたかと思ったら、そっと抱きついてきた。

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