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第200話

「陽向が芹澤のところに居て、変な倶楽部に連れていかれた頃は、まだまだ小柄な子供のような容姿だったんだろう? 俺も分からなかったんだ。見た目ですぐに気が付く奴はきっといない。 だけど、このタトゥーがあの時のペットの子だという証拠になってしまうのが怖いんだよね?」 目を伏せる暗い表情が、そうだと物語っている。 「特にこっちは相手を認識していないのに、相手はこっちを知っている、しかもそれがどれぐらいいるのかも分からないという不安が、誰の前でも陽向がストールを外せない原因なんじゃないかな」 陽向がゆっくり頷いた。 「陽向、今から記憶の改ざんをしよう」 「・・・?」 よく分からないといった視線を鏡越しに返してくる陽向のタトゥーをそっと指でなぞる。 陽向の体がぴくりと反応した。 鏡の中の陽向の目を見ながら言う。 「陽向のこのSというアルファベットと絡み付く鎖のタトゥー。この印は、無理矢理芹澤につけられたものじゃない」 ますます分からないと、鏡の中の陽向の目が訴えている。 「このSは征治のSだ。陽向が俺をずっと愛している証として刻んでくれた印なんだ」 そう言って、タトゥーにキスをした。 陽向が大きく目を瞠る。 「いい?これは征治の頭文字の『S』だよ?」 「・・・」 「そんなことを言葉で言い聞かせても、何年もとらわれていた意識はなかなか変えられない?」 「・・・」 「やっぱり、ビジュアルに訴えた方が効果的かもしれないな」 「・・・ビジュアル?」 「俺も同じところに陽向の頭文字のHを同じデザインで彫るんだ」 「!?」 「タトゥーのデザインなんて一点ものとは限らない。たまたま俺たちはこの図案を選んだんだ。 誰かにこのタトゥーはなんだと問われても、恋人とお互いに愛を誓ってお揃いで彫ったんですって言える。 そして、陽向は俺の体に同じものがあるのを見る度に、新しい記憶を刻むだろう?」 陽向の顔がくしゃりと潰れた。 ゆるゆると首を振り、震える声で訴える。 「そんな・・・駄目だよ・・・征治さん、僕なんかのために体を傷付けたら。それに、そんなことしたら・・・プールにも温泉にも入れなくなるんだよ?」 「そんなの、別にいいよ」 もう一度タトゥーにキスをして、陽向を後ろから包むように抱きしめた。 「それから、『僕なんか』の『なんか』は取り消して欲しいな。俺は陽向が大切なんだ。俺がタトゥーを入れることで、陽向を縛る鎖が俺との強い絆に変わるのなら、安いものだよ」 「征治さん・・・」 陽向の目から零れた涙が、征治の腕に温かい雫となって落ちてきた。

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