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第199話
陽向の手を取って握り、質問を続ける。
「陽向が首の周りをストールで隠さないと外に出られないのは何故だろう?」
「・・・人に見られるのが怖いから」
「それは、陽向の過去を知っている人に見つかるかもしれないから?」
「そう」
「じゃあ、絶対に無関係だと分かっている人に見られるのは、怖くない?」
「・・・そうだね。でも、これは何?と聞かれるのはやっぱり嫌。本当のことは話したくないから、誤魔化すか嘘をつくしかなくなっちゃう」
「そっか。じゃあ、過去を知っている人に見つかるのが怖いのは何故かな?」
「逃げ出してきたから、連れ戻されるんじゃないかっていう恐怖とか、あの頃の写真や動画があって脅されたらどうしよう・・・とか?」
「そのタトゥーと陽向を結びつける人は、陽向をペットにしていた二人とその関係者、
それから芹澤が陽向を連れて行った倶楽部に出入りしていた人間だね?
まず連れ戻されるほうだけど、陽向はもう何もできない10代の子供じゃない。向こうは半分だますように未成年を借金漬けにして、無理やり合意というという形で実質軟禁状態にしていたんだ。こっちは法的に戦うことだってできる。
次に写真なんかで脅される方。ああいうのって、自分や家族の勤め先、若しくは恋人にばら撒くぞと脅して金品を要求したり嫌がることを無理強いするのが常だよね?
勿論、恐喝は刑法に触れる犯罪だ。それでも、往々にして脅された人が言いなりなるのは、社会的地位に影響したり、周りの人に知られたくないからだろうね。
幸か不幸か、陽向には家族がいないし、属している社会もごく小さい。
陽向は誰に知られるのが怖い?」
陽向は黙って俯いている。
「仮にあすなろ出版やアルバイト先の税理士事務所に知られることになったとしよう。恥ずかしいというのは別として、仕事を切られたりするかな? 万が一、関係が悪くなっても他の出版社や税理士事務所はいくらだってある。
それに元々、秦野青嵐が風見陽向だと知っている人間は数えるほどしかいないだろう?
そして、陽向の恋人はどんな写真や動画が出てきたって、絶対に陽向を嫌いになったり手放したリしない」
握っている手に力を込める。
「そうは言っても、裏社会に通じる奴らが何をしてくるか分からないと怯える気持ちはよく分かる。陽向の両親のこともあるしね。
でも、もし耐え難い羞恥心に苛まれたり、辛い目や危険な目に会うようなら、俺は陽向と一緒にどこへでも逃げてあげるよ」
「そんなこと・・・」
「仕事なんてなんとでもなる。東京に固執する理由もない。俺は陽向の方が大切だ。必要とあれば、地方にユニコルノの支社や子会社を作ると会社を説得だってしてみせる」
絶句している陽向の手を引いて、姿見の前に連れていく。
「脱がせるよ?」と断ってから、上半身を裸にした。
身を固くする陽向を後ろから両肩を掴んで鏡に向かって立たせる。
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