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第198話

征治の部屋で夕飯を食べ終わった後、征治は陽向をソファーに座らせ、自分もその横に陽向の方を向いて座った。 「陽向、話をしよう」 途端に不安気な表情を浮かべた陽向は両足をソファーの上に上げ、征治の方を向いて膝を抱えて体育座りをした。外敵から身を守ろうとするアルマジロやハリネズミの様に見えて、苦笑する。 「そんな、固くならないで。リラックスして」 そう言いながら、ぎりぎりまで陽向に近づき頭を撫でる。少し陽向の緊張がほぐれてきた様子を確認して話し始めた。 「ねえ、陽向。陽向にとって、うなじのタトゥーってどういうもの?」 陽向の顔が瞬時にこわばり、両目が不安そうに揺れ始める。 「陽向、大丈夫だよ。俺は陽向のタトゥーが嫌だって言ったんじゃない。陽向の考えが知りたいだけ」 努めて落ち着いたトーンでゆっくりと話す。しっかりと陽向と目を合わせ、優しく頬を撫でる。 「どうって・・・惨めな過去の象徴?・・・忘れてしまいたいのにそれをさせないために押された刻印・・・いつまでもこの5センチ四方のシミに自分が支配されている・・・まさに図案のとおり鎖で縛られている・・・そんな感じ」 「それが無ければって思う?消えたらいいなって」 「それは何度も考えたよ。ネットで色々調べたりもしたけど・・・ レーザーで何度も焼けば不鮮明にはなるけど、色自体を完全に無くすのは難しい。皮膚の移植手術をすればタトゥー自体は取り除けるけど・・・どっちも結構お金がかかる。僕そんなに余裕が無かったし・・・」 「じゃあ、もし、宝くじが当たっていくらでもお金に余裕が出来たら手術してすっきりする?」 「それも考えたけど・・・絶対に工面できない金額ってわけじゃないから・・・ だけど、Sの文字が不鮮明になっても、皮膚移植しても手術跡を見るたび結局は思い出すだろうし、過去にあった事実が消えるわけじゃないし・・・」 「じゃあ、今、そこにタトゥーがあっても無くても結局同じってこと?」 目を見開いた陽向は、それから眉間にしわを寄せて考え込んだ。 「最初から無ければいいに越したことはないのは分かるよ。仮に完全に何もなかったようにタトゥーを消すことが出来る技術があって、お金にも不自由していないとしよう。 今、その処置を受けたら陽向は除去する前と変わる?陽向の心は辛い経験を完全に忘れて、解放される?」 ううーと唸った陽向は首を振る。 「完全にタトゥーが消えたとしても、そういう意味ではあまり変わらないと思う」 征治は頷いた。

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