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第197話
サングラスを買った後は、自分の服を見る振りをして連れて行った店で陽向のシャツを見繕った。
実は眼鏡屋へ向かう途中でトルソーが着ていたのを見て、目をつけていたのだ。
陽向はたぶん目立ちたくないという意識も手伝ってだろう、いつもファストファッションのグレーやネイビーといった地味な服ばかり着ている。
征治が陽向に勧めたのは落ち着いたトーンのオレンジで、わずかに光沢のある、しかし派手すぎないシャツだ。
案の定、尻ごむ陽向に店員がアピールをする。
「この生地はシャンブレーでも縦糸にオレンジ、横糸に白じゃなくて山吹色の糸を使ってるんですよ。だからほら、角度によって色がかわるでしょう?
こういう色は、お客様の様に色の白い方に映えるんですよ。色黒の方だとせっかくの光沢が下品になっちゃうと言うか」
ショップの店員が言っているのもあながち間違っていないと思う。
「だけど・・・」
伊達メガネの奥から送って来る『どうして?』という陽向の視線を笑顔で受け止める。
一目見て色が気に入ったのと、襟が高いのもポイントだったので、それを確認するためにも「きっと似合うよ」と試着を勧めた。
もう反論するのも諦めたのか素直に試着をした陽向に、店員は満足気な声をあげた。
こんな風にされるとおしゃれ感アップですよと袖を折って見せながら言う。
「今お召しになってるデニムにも合いますし、これからの季節は白のジーンズに合わせてもばっちりですね。ハットに茶系のサングラスなんて合わされたら完璧ですよ」
陽向は視線を落とし黙ってそれを聞いていた。
陽向のシャツと自分用にポロシャツを買った後、書店に寄り、夕飯用に総菜をいくつかと翌日用の食材を調達して帰路についた。
車に乗り込んだ陽向が、はぁと小さく溜息をつく。
「ごめん、陽向疲れちゃったね」
「大丈夫」
そう言って微笑もうとする陽向の顔には、明らかに疲労が滲んでいる。人混みだけでなく、人目を恐れる陽向は緊張状態が続いただろう。
「家に着くまで寝てていいよ」
頭を撫でてやると、ゆるゆると首を横に振る。
「無理しなくていいから。ね?おやすみ」
そう言って何度か頬を撫でてやると、やがて瞼がゆっくり落ちてきた。
催眠術みたいだと可笑しかったが、それだけ陽向が疲れていたということだ。
ごめん、陽向。
陽向が不安を感じているのは見て取れる。
でも、大丈夫だから。
征治は陽向を起こさぬよう、静かに車を発進させた。
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