204 / 276

<第18章>   第204話

金曜日の夜に、征治は山瀬と陽向と三人での食事をセッティングした。 会社からほど近い中華料理店の個室を押さえ、陽向とは店で落ち合う約束だ。 山瀬を連れ、予約した個室の扉を開けると、先に来ていた陽向が少し緊張した面持ちで椅子から立ち上がった。 その姿に「おっ」と思った。 マスクもストールもしていない。そして、あのオレンジのシャツを着ている。 個室で、相手が山瀬だからというのもあるだろうが、頑張ってみたんだと陽向に視線を送ると、うんと言うように少し頷いた。 「山瀬さん、ご無沙汰しています」 「いや、こちらこそ。前に秦野さんに社の近くでお会いしたのは、確か去年の夏頃?もう1年近く前になるんですね。それにしても、声が出るようになって本当に良かったですねえ」 社交家の山瀬は、屈託のない笑顔で一気にその場をくつろいだものにした。 「えーっと、『秦野さん』でいいのかな?」 「あ・・・風見陽向です。風見でお願いします」 四角いテーブルの山瀬の向かいに陽向が座り、その隣に征治が座った。 陽向がまず、ユニコルノとの打ち合わせを途中で退席したことを詫びた。 「いいんですよ、もうそんなこと。詳しいことは知りませんが、征治から色々事情があったことは聞いています。それにしても、凄い偶然でしたね。幼馴染にばったりだなんて」 山瀬はおおらかに笑った。 それから料理が運ばれてくる間、山瀬が雑誌に連載されていた謎の奇病が流行る話は面白かったと賞賛した。 陽向は恐縮し、山瀬はあれはいずれ単行本化されるのかなど尋ね、しばらくその話題で盛り上がる。 「脳の電気信号を取り出されて思考が読まれるのはマズい」 と山瀬が言えば、 「社長がこんな子供みたいな事ばっかり考えてるってバレたら、うちと取引するところ無くなりますよね」 と征治が茶化す。 「お前だって、王子スマイルの下の素は、実はムッツリだったってバレて、キャラ崩壊して困るんじゃないのか」 などと言い合っているのを、陽向は笑って聞いている。 やがて、酒と料理が運ばれてきて食事が始まった。

ともだちにシェアしよう!