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第205話
征治が、
「ピータンは食べたことある?色は悪いけど美味しいよ」
「この雲白肉はかなり辛いからやめた方がいい。味蕾を痛める」
「これ、薄味だけど感じる?何か足す?」
と過保護気味に世話を焼き、
「征治さん、海老好きでしょ?僕は少しでいいよ」
「駄目、陽向はもう少し食べて太らないと」
などと二人で言い合っているのを、山瀬がビールのグラスを持ったままポカンと見ている。
「んん?随分仲良しだな・・・ああ、幼馴染だから・・・」
その言葉に、陽向がかあーっと赤くなり、俯いた。
「え?」
何かマズい事でも言ったかと、山瀬は慌てて助けを求めるように征治を見るが、征治は愛おしそうに陽向を見つめている。その視線の意味の分からない山瀬ではなかった。
「征治・・・まさか・・・そうなのか?」
征治は箸を置き、山瀬と向き合った。
「ええ、そうなんです。陽向は俺の恋人です」
山瀬は目を瞠り、征治とその隣で耳まで真っ赤になっている陽向を交互に見やる。
「今日は、山瀬さんにそれを報告したくて来ていただきました」
普段は少々の事では動じない山瀬だが、さすがに想定外だったのかすぐには言葉が出てこない。
「え・・・いつから?いや待て、分かるぞ」
山瀬はばっと手のひらをストップというように前に突き出した。
「・・・2カ月ぐらい前からじゃないのか?そのあたりから、急にお前が柔らかくなったというか明るくなったというか。
それまでは、やたらとスケジュールを詰め込んで仕事ばっかりしてたから、俺もなんかきっかけがあったのかとは思ってたが・・・まさか征治が恋愛とは」
「ははは、俺そんなに分かりやすかったですか?
実は陽向は俺の初恋の相手で、中学・高校の頃にも付き合っていたんです」
「マジか!?」
「その後、誤解や複雑な事情で別れたまんまになっていたんですけど、ようやく最近お互いの気持ちが再確認できて」
「はあぁ、そうだったのか・・・あー、以前にお前が言ってた、どうしようもなく惹かれて心奪われた相手って風見さんだったの事だったのか」
そういえばそんな話をしたこともあったと思い出す。
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