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第206話
「じゃあ、本当にあれは運命の再会だったんだな。風見さんもずっと征治のことが好きだったの?」
「えっと・・・」
陽向は山瀬をためらいがちに窺い、それから征治の方を見る。征治が微笑み返すと意を決したように山瀬に向き直った。
「僕の初恋の人も征治さんです。征治さんは子供の頃から僕にとって特別な人で・・・それは今でもずっと変わりません」
「凄いな・・・。じゃあ、俺は二人にとって大恩人じゃないか。確か、8年ぶりの再会とか言ってなかったか?それに、なんか複雑な事情があったんだよな?風見さんの声が出なくなるぐらい」
「山瀬さんには本当に感謝してますよ。引き合わせて貰ったのもあったし、上司というだけでなく先輩であり兄貴である山瀬さんにはちゃんと報告しておきたかったんです」
そうかそうかと頷いた山瀬は、やがて顔を綻ばせた。
「征治の長い冬もようやく終わって、再び春が来たんだな。良かったなあ」
「俺、今思えば、もうずっと自分の中の何かが欠落しているような、そんな感覚があった気がします。
陽向ともう一度やり直すことが出来るようになって、やっとそこがぴったり埋まったというか・・・
もっと言えば、もがれていた半身が戻って来たような気すらしています。
だから俺はもう二度と陽向を手放すつもりはありません」
「なんだか、結婚の報告みたいだな」
「そう思って頂いて結構ですよ。一生、一緒にいるつもりなので」
隣の陽向が小さく息を飲んでこちらを見たのが分かった。
「ところで、山瀬さん。同性っていう点はさっきから完全スルーですね?」
「そりゃあ、多少は驚いたけど・・・そんな子供の頃からお互いに惚れ合ってるって聞かされたらさ。
詳しくは知らんが二人の間には酷く辛い時期があったんだろう?それを乗り越えて成就したっていうなら、ただただおめでとうっていう気持ちになるよ」
山瀬なら偏見を持たずに応援してくれるだろうとは思っていたが、驚きすぎて不用意に飛び出した言葉が陽向を傷付けたりしないか、一抹の不安はあった。
だがやはり、さすがだ。
「しかし、美男美男カップルだなあ。二人のタイプは全然違うけど」
「見た目で好きになったわけじゃないですよ?なにしろ、大人になって再会しても気付かない程、子供の頃の陽向は・・・」
とにかく小さくて、坊主頭に近い短髪で庭仕事のせいで今よりずっと日焼けしていたが、大きな目が可愛くて、中身がとにかく純粋で素直で誰からも可愛がられてと征治が力説すれば、
「征治さんは、小学生の頃から王子様で、頭が良くてかっこ良くて誰にでも優しくて、みんなの憧れの的でした」
と陽向も続けるので、山瀬は「わかった、わかった」と二人の惚気話に苦笑した。
「ははは、じゃあこれで千春の失恋は確定だな。征治にまるでその気が無いのはわかってたが、俺も妹は可愛いし、もし征治が義弟になってくれたらと思ってたから残念ではあるが。
まあ旨い飯でも連れてって慰めてやるか。あいつのことだから、他にも色々ねだられそうだけどな」
そう言って山瀬はカラカラと笑った。
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