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第6話

とある若い男が、勤め先の工場の爆発事故に巻き込まれてしまう。命に別状はなかったものの男は聴力を失い、視力も著しく落ちてしまう。 あまりのことにショックを受け、仕事を失う不安もあって荒れる男を、同じ会社で働いていた婚約者と、学生の頃からの親友が献身的に支えてくれる。 二人のおかげで落ち着きを取り戻し、これからどう生きていこうか前向きに考え始めた男は、やがて婚約者と親友が互いに惹かれ始めていることに気が付く。深く傷つきながらも、耳の聞こえない男は確信も持てず悶々と悩む。 婚約者と親友は男の手のひらに指で字を書いて言葉を伝える。男は伝えられた文字とぼんやりしか見えない相手の表情から、これは彼らの本心なのだろうかと疑い続け、やがて疲れてしまう。 こんなに懸命に自分を支えてくれる二人を疑ってしまう自分に嫌気がさした男は、現実逃避の方法を見つける。 なまじ中途半端に目が見えるからいけないのだ。 それから男の目、いや脳は二人に接するとき、学生の頃一緒にバカをして笑いあった親友の笑顔と、婚約者が自分の事を愛していると言ってくれた時の優しい笑顔、つまり自分が一番好きな相手の表情だけを映し出すようになり、聞こえないはずの耳は指で伝えられた文字以上の自分にとって心地良い言葉を聞くようになる。 平穏を取り戻したはずの男の心は、やがてまた揺れ始める。今の自分にとってこの二人は不可欠な存在だ。しかし婚約者の幸せ、親友の幸せはどういう形なのだろう。自分が二人の足枷になっているのではないのか。かと言って自分が身を引けば、優しい二人は自責の念にかられてしまうのではないだろうか。 そんな時、医師から新しい情報がもたらされる。 傷ついた角膜を移植すれば視力が回復するという。ただ角膜のドナーが現れない限り移植はできない。しかし、自分の口の中の細胞を利用して培養した人工角膜を移植する方法の治験が進んでいるというのだ。 目が、また元のように見えるようになったら。 見たくないと思っていたものが全部見えてしまうのではないかと恐れる気持ち。もしかしたら婚約者の心を取り戻せるのではないかという想い。様々な思いが男の中を交錯する。 そんなある日、婚約者が男の手のひらに「また明日」と書いているとき、男の腕に温かいしずくがぽたぽたと降ってくる。男の脳内では最高の笑顔のはずの彼女が泣いているのだ。男には彼女の涙の理由が分からない。 悩んだ末、二人には何も告げずに治験をしてくれる病院へ移り、移植手術を受けた男の視力は、無事に回復する。 そして男がまぶしそうに目を細めながら病院を出ていくところで話は終わっている。 結局この男がその後どうしたのかは書かれていない。 しかし、読み終わったあと、征治はしばらくこの話の続きを色々と想像した。そして無意識のうちに、それぞれが善人である3人ともに救いのある結末へ持っていこうとする自分に苦笑したのだ。

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