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ワンライ①
お題:憎まれ口、隣においで、ニット帽
「好きだよ」
「あっそ」
「ねぇ、律は俺のこと好き?」
「ああ」
「ちゃんと言葉にして言って欲しーな」
昼休み、売店で買った総菜パンを食べていると、突然始まった愛の囁きタイム。一日一回必ず「好き」だと俺の顔を見て伝えてくる、彼氏の凛太郎に返す俺の態度は、
「しつこい、ウザい」
とまあ酷いものだ。
自分でもそう思うのに、出てくる言葉はいつもいつも冷たい憎まれ口。男同士付き合っていることをオープンにしている俺達に向けられる視線や言葉と言えば、
「律の奴、またあんなこと言ってるよ」
「凛太郎君はなんであんな奴がいいんだろ」
「律には勿体なさ過ぎる」
とまあ、周りからも憎まれ口を叩かれている。
本当は俺だって素直に口に出せたらって思うけど実際はそう簡単じゃない。心の中で「そうじゃないだろ!」って自分にいつもツッコんでいる。
「まぁいいや。それより明日デートしよ。律の家で」
「は?ちょっ」
「変更はもうできませーん」
「ちょっ、ちょっ」
凛太郎は言い逃げするように、食べ終わった菓子パンの包みをグシャリと纏めると立ち際に俺の頬にキスをしていった。人目があるっていうのに平気でこういう事をしてくる。嵐のように去って行った凛太郎に溜息が出るけど、心の中で「俺も好きだよ」と囁いてみた。
次の日、朝から押しかけてきた凛太郎にびっくりしたけど、いつも嬉しそうに笑っている凛太郎の顔を見てしまうとなんでも許してしまいたくなる。
「今日こそちゃんと言ってくれる?」
コートも脱がずに部屋に入って早々凛太郎が問いかけてきた。
「何を」
「だーかーら、俺の顔見て好きって言って欲しいってずーっとお願いしてるよね」
「・・・何それ知らないし」
毎日お願いされてるくせに何が知らないだ。
胸がツキンと痛んだけど口から出るのはいつもの憎まれ口。こんなんじゃいつか愛想尽をかされるよなと落ち込む。気持ちが顔に出てしまっていないか気になってそっぽを向いていると、ギシリとベッドがなった。
「律、隣においで」
振り返ってみると、凛太郎は自分が座っている横を手のひらでポンポンと叩いて誘っていた。何する気だよと身構えてしまう俺に凛太郎の手が伸びてきて二の腕を捕まれ、強制的に隣に座らされた。
「律」
「ッ!」
あろう事か、凛太郎は俺の顔を両手で挟んで自分の方へ無理矢理向かせた。
「好きだよ。大好き。律は?」
「ッッッ!」
ただでさえ恥ずかしいってのにこんな近距離じゃ尚更無理だ。
「離せよっ」
怒ったように言ってみたけど凛太郎は引く気がないらしい。
「言って」
「い、いやだ」
「言ってくれなきゃこのままキスして律の服脱がしてエッチなこと沢山しちゃうよ。いっぱい声出て家族のみんなに聞こえちゃっても知らないよ」
怒濤のように並べられた言葉にボンッと顔が赤くなったのがわかった。
「どっちがいいの、律。俺に今、好きって言うのか、今すぐめちゃくちゃに喘がされ---」
「だーー!!好きだよバカッ!」
恥ずかしい事を平気で言う凛太郎の言葉に火が出るほど顔が熱い。表情で心を読まれるのが恥ずかしくて、俺は凛太郎が被っていたニット帽を鼻下まで引っ張ってやった。
[end]
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