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痴漢電車編☆
先輩の部屋に行くと、壁のフックに学ランとスーツが並んでかかっていた。
「先輩、僕どっち着ればいいですか?」
ぶっちゃけてしまうと、学ランもスーツも両方先輩に着て欲しいが、例の再現をするからと呼び出された以上、どちらか片方は僕用の衣装だろう。
「学ランに決まってるだろ」
「ですよねー……」
悲しいかな、僕と先輩の体格を比べれば、どちらが高校生役がふさわしいかはあきらかだ。
先輩のスーツ姿は楽しみだから、僕が学ランを着ること自体は別にかまわないのだが、やっぱりちょっと悲しい。
「あ、中のTシャツそれだと厚いから、こっちに着替えてくれ」
「はい」
先輩が出してくれたスポーツブランドの薄手の白Tシャツに着替えてから、僕はかかっていた学ランに手を伸ばした。
「これって先輩が昔着てたやつですか?」
「おう。
こないだちょっと実家帰ったついでに持ってきた」
「なるほど……」
適当な相づちを打ちつつ、僕の脳内は高校時代の学ランの先輩でいっぱいになっていた。
おまけに高校生の先輩が毎日身につけていた学ランを自分が着ることになって、やばいくらいに興奮している。
「……ぷっ……、お前、それ……」
学ランに着替え終えた僕を見て、スーツに着替え途中の先輩が吹き出した。
「……仕方ないじゃないですか……」
すっかり興奮が冷めてしまった僕は、すねたような答えを返してしまった。
先輩と僕の体格差を考えると、僕が先輩の学ランを着たらぶかぶかなのは当たり前だ。
袖もズボンの裾も長さが余っているし、ズボンのウエストもずり落ちそうなのを何とかベルトで締めている状態で、かっこ悪いことこの上ない。
「まあいいか。
成長見越して大きめの制服買った1年生みたいでかわいいしな。
危ないからズボンの裾だけ折っとけよ」
「はい」
僕が先輩に言われた通りにズボンの裾を折り曲げて顔を上げると、先輩はネクタイと格闘していた。
「あー、もうめんどくさいから、ネクタイはなしでいいか」
「あ、僕結びましょうか?
高校の時ブレザーだったんで毎日結んでましたから」
「お、じゃ頼む」
「はい」
そう答えて、ちょっとドキドキしながら先輩のネクタイに手を伸ばしたものの、正面から人のネクタイを結んだ経験はなくて、どう結べばいいかわからない。
「すいません。
前からだとよくわからないんで、後ろからでいいですか?」
「おう」
「じゃ、失礼します」
そうして僕は先輩の後ろに回って、先輩の首に手を回してネクタイを結んだのだが、これがまた、ドキドキして仕方が無かった。
この体勢だとまるで、先輩に後ろから抱きついているみたいだ。
先輩とラブラブになって、こんなふうに後ろから抱きついて甘えるところを思わず想像してしまい、あやうくネクタイの結び方を間違えそうになるところだった。
「出来ました」
「おう、サンキュ」
僕が名残惜しく思いながら先輩から離れると、先輩はスーツの上着を着た。
普段は洗いっぱなしの髪を整髪料で整えると、先輩は見違えるくらいに大人っぽく、いつも以上にかっこよくなった。
先輩は院を目指しているそうで就職活動をしていないので、先輩のスーツ姿は超貴重だ。
僕が先輩に見とれていると、先輩は机の上に置いてあるいつもの同人誌を手に取った。
「それで今日の再現なんだけど、痴漢電車編な。
内容知らない方が、何されるかわからなくて不安な感じが出やすいと思うから、これ読むのは後にしてくれ」
「はい。
それじゃ僕はどうすればいいですか?」
「満員電車で触られてることに気付いて、周りに気付かれないように抵抗するけど、だんだん気持ちよくなってきて流されるって感じで頼む。
ドアの前に立ってる設定だから……そうだな、あの壁のところでやるか」
「わかりました」
そうして僕たちは壁際に移動した。
高校生コスの僕が電車のドアに見立てた壁に片手をついて、電車に乗っているつもりで軽く体を揺らしていると、リーマンコスの先輩が、後ろからそっと体を近づけてきた。
ここは痴漢ものなら、なんかこの人近いな、とか思って体を離すところかなと思って、僕は先輩から体を離して壁の方に体をくっつける。
そうすると案の定、先輩はさらに僕に体を近づけてきて、当たっているのか触っているのか微妙なくらいの強さで、僕の尻に手を当ててきた。
僕がもぞもぞ動くと、痴漢役の先輩は今度ははっきりと尻をつかんできた。
周りに気付かれないように抵抗するんだったなと思い、僕が抑えた動きでなんとかその手を押しのけようとすると、その手は今度は前に回ってきた。
「えっ……」
自分でも知らない間に、このシチュエーションに結構のめり込んでいたのか、先輩の手に自分のナニを握られた僕は小さく驚きの声を上げてしまった。
「声なんか出していいのかい?
こんなこと周りの人に知られたら、困るのは君だよ?」
僕のズボンのファスナーを下げながら僕の耳元で囁いた先輩は、いつもとは違う、わざと作ったような声だった。
「っ……」
されていることだけでなく、その声もあって、僕は反射的に身をすくませる。
考えてみれば、これまでの3作の再現はどれも先輩は『先輩』の役だったのだが、この再現で先輩が演じているのはどこの誰ともしれない痴漢なのだ。
整髪料の香りでいつもの先輩の匂いが消えていることもあって、今自分を触っているのが、先輩だけど先輩じゃない、見ず知らずの痴漢なのだと自覚して、僕は何だか変に緊張してしまう。
痴漢の手は大胆にもファスナーを開けたところから下着の中まで手を入れてきた。
そうしてまだ柔らかい僕のナニをつかむと、それをズボンの外につかみ出してきた。
「や、やめてくださいっ……!」
実際にはここは先輩の部屋の中で、周りには誰もいないというのに、僕は無意識のうちに小声になって哀願する。
「やめていいの?
もうこんなに固くしてるのに?」
たぶん僕を触っているのが本当に見ず知らずの痴漢なら、怖くて気持ち悪くて勃つどころではなかったと思う。
けれども今僕を触っているのは、痴漢だけれども先輩で、その手は僕のことを何度も触って気持ち良くしてくれた先輩の手で、だから僕は満員電車の中で痴漢に触られているのに感じてしまう。
「うぅ……」
たぶん先輩の顔が見えていないことも原因なんだろう。
僕は何だか現実と再現の区別がつかないくらい混乱してきて、涙目になってうめく。
それでも不思議なことに、体だけはしっかりと感じている。
「満員電車の中でち○ぽ触られて感じるなんて、君、ずいぶん淫乱なんだね」
笑いを含んだ痴漢の囁きに、僕は小さく、しかし必死に首を振る。
「そう?
淫乱じゃないんなら、こういうとこ触られても平気だよね?」
そういうと痴漢は空いている手で器用に学ランのボタンを一つはずすと、その隙間から手を入れてきた。
「っ……!」
僕の体をよく知っている先輩の痴漢は、Tシャツの上から迷うことなく、僕の開発されつつある乳首をつまんできた。
それと同時に痴漢は、僕の尻の狭間に、覚えのある感触の固いモノを押しつけてきて、僕は反射的に逃げようとしてしまう。
「あっ……」
逃げようとした結果、僕は痴漢の手に自分のモノをぎゅっと押しつけてしまった。
乳首と前を同時に刺激され、危うく僕はイキそうになってビクビクと体を震わせる。
「い、ん、ら、ん」
一文字ずつ区切って囁かれ、くすくす笑われて、僕はもう、完全に痴漢の手に落ちてしまったのだと思った。
そうなると後はもう、痴漢の思うままだった。
前を散々いじられ、後ろから突かれているみたいに固いモノをこすりつけられ、ついでに乳首ももてあそばれて、僕は声を上げないようにするだけで精一杯だ。
「……っっ!!」
とうとう僕は、満員電車の中で達してしまった。
知らない間に僕のモノの先端はハンカチで包まれていて、痴漢はそのハンカチでそのまま僕のモノをきれいにすると、また元通りにズボンの中にしまってファスナーを上げた。
「もっとして欲しそうな顔だね」
「あ……」
「次の駅で一緒に降りよう。
いいね?」
痴漢の言葉に、僕は黙ってうなずいた。
痴漢は僕の腰を抱いて、電車を降りた。
「この後、駅のトイレ行くんだけど、トイレでやるのはちょっときついから、このままここでやろう」
痴漢が、いつもの先輩の声でそう言って、僕ははっと我に返る。
「あ、はい」
まだちょっと混乱しつつも、これは再現なんだった、と再確認した僕は、慌てて先輩に返事をした。
そうしてそのまま駅のトイレに連れ込まれたつもりになって、ズボンとパンツを脱がされ、壁に手をついて、立ちバックで挿入された。
一回我に返ったので、僕を抱いているのは間違いなく先輩だと分かってはいたが、なんとなく不安で、僕は何度か振り返って先輩の顔を確認してしまった。
何度目かに振り返った時、先輩は僕のあごをつかんで唇を重ねてきた。
そうして不自然な体勢で交わしたキスは、やっぱりいつもの先輩のキスで、安心した僕はそのまま達してしまったのだった。
そうして再現が終わり、僕はいつものように先輩からもらった同人誌を読んだのだが。
「あの先輩……」
「ん?」
「この本、トイレのシーンありませんよね?」
なんと先輩からもらった本では、『祐人』と痴漢が一緒に電車を降りるところで終わっていて、駅のトイレのシーンなどどこにもなかった。
道理で今回の本はいつもより薄かったはずだ。
「描いてないけど、俺の脳内にはトイレのシーンもあったんだよ!」
「脳内って……」
逆ギレ気味の先輩に、僕もさすがに少し呆れる。
「悪かったよ……描いてないとこまで再現させて。
今度トイレのシーンもちゃんと描き足すから、それで勘弁してくれ」
「わーい! 約束しましたからね?」
そう言いながらも僕は、マンガの追加とは別のことが嬉しくてにやにやしていた。
先輩、マンガの再現だけじゃ我慢できなかったんだ。
例え脳内の再現だったとしても、先輩がマンガにはない挿入シーンをやりたいと思ってくれたことが嬉しい。
これまでが毎回きっちりマンガの分だけのエッチだっただけに、これは大きな進歩なのではないのだろうか。
そのうちにマンガの再現でも脳内の再現でもないエッチができるようになれたらいいな、などとと僕が考えていると、先輩が話しかけてきた。
「そういやお前の高校はどんな制服だったんだ?
ブレザーだったんだよな」
「普通のやつですよ。
上は紺で下がグレーのチェック、ネクタイはストライプで学年ごとに色が違うんです。
僕は緑でした」
「写真とかないの?」
「多分卒業式に撮ったやつがスマホに入ってたと思いますけど」
そう答えると先輩が僕の鞄を取ってくれたので、僕はスマホを出して写真フォルダの中を探した。
「あ、ありました。
下はちょっとしか写ってませんけど」
「どれどれ……おお、いいなこれ」
僕が見せた友達数人と一緒に写っている写真を、先輩はなんだか妙に嬉しそうに見ていて、僕はなんとなく嫌な予感がした。
「よし、この写真、俺のスマホに送れ。
他にもあったらあるだけ全部な。
あとこの制服でマンガ描いたらまた再現するから、お前も今度実家帰った時に制服持ってこいよ」
「あー……わかりました。
けど僕の実家、先輩みたいに近くないですから、次に帰るの多分正月ですよ。
あと制服もまだとってあるかどうか……」
「うるさい。
正月でもいいから、とにかく帰った時に探してこい。
なかったら代わりにセーラー服着せるから、気合い入れて探せよ」
「うわー、横暴ー」
文句を言いつつも、僕はまた、にやにやしてしまう。
今はまだ秋口だというのに、先輩が正月過ぎてからもまだ再現してくれるつもりでいるというのは朗報だ。
つい最近まで自分が着ていた制服を使ってのコスプレはかなり痛そうだが、それでもセーラー服よりはマシだから、今度帰省した時にがんばって探してこよう。
そんなことを考えつつ、僕は高校の制服が写った写真を他にも何枚か探し出し、メールに添付して先輩に送った。
「お、来た来た。
サンキュ」
「あ!
先輩、それ一緒に写ってる友達はマンガのモデルに使わないで下さいよ」
万が一友達をモデルに使われて、『祐人』が友達に抱かれているようなマンガを描かれたら泣く。
まして先輩が友達を抱いているようなマンガを描かれたらもっと泣く。
「わかってるって。
だいたいお前にバレてからはもう、再現前提で描いてるから、他のやつ出す意味ないし」
「そ、そうなんですか」
先輩の言葉にうれしいような複雑なような微妙な気分になりながら、ともかく友達をモデルにはされないことがわかって僕はホッとしていた。
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