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あの日から 9

「安志!……どうして?」 「洋、お前まだ危なっかしくて放っておけないよ」 「……ごめん」 「こっちに来いよ」  洋の腕を掴み、窓際に連れ出し、その前にガードするように立った。洋を見下ろすと青白い顔をして、微かに震えていた。 「大丈夫か?」 「……安志悪い。ありがとう。俺はどうして何時もこうなんだろうな。変わりたいのに周りが……本当に嫌だよ。こんなのもう!」  少し遠くを見つめ、そのきゅっと引き締まった桜色の唇から、暗い色のため息をもらした。その吐息が俺に微かにかかる。  揺れる電車の中で洋の前に立っていると、あの高校時代の通学電車の中を思い出す。洋の黒髪が俺の顎をすっとかすめて、くすぐったい気持ちでドキッとしていたよな。  あーあの頃と俺ちっとも変ってない。洋にその気がないのは重々承知しているのに、俺はいつまでも未練でいっぱいだ。 「何処で降りる?」 「……」 「おいっ駅位、教えろよ」 「ん……あと二つ先の駅」 「そこに住んでるのか」 「あ……あぁ」  途端に気まずそうにそわそわし始めるので、余計に気になってくる。まさか彼女と同棲とかしてないよな?余計に心配だ。洋のことだ、やっぱりアメリカでは彼女位いただろうし、それって普通のことだよな。 「今……もしかして誰かと一緒に住んでるのか」  思い切って尋ねると、洋の躰がびくっとした。 「いや……会社の寮だから」 「なんだ、それならそうと早く言えよ」 「う……うん」 「そういえば洋って、どこの会社に勤めてる?俺は大学出た後さ、警備会社に就職したんだ」 「へぇ……安志が!すごい!野球ばかりやっていたのになぁ。でも警備会社ってなんだかお前に似合うな」  洋の気分も回復してきたのか、少し明るい笑顔を見せてくれたので、俺も嬉しくなった。 「洋は?」 「いや……普通に父親の関係で入った製薬会社に勤め出した所さ」 「へぇ流石だな!お前のお父さんは事業家だもんな。俺の家とはもともと格も違っていたよな」 「そんなことない!」  そんな話をしていると、あっという間に洋の最寄り駅に着いてしまった。このまま別れるのは、名残惜しいな。 「寮は駅から遠いのか」 「大したことないよ。安志ここでいいからな。付いて来るなよー」 「お前って奴は相変わらず白状な奴だな!」 「ははっ変わらないだろ!」  いたずらそうに笑う洋を見ていたら、小さい頃、公園で遊んでいたやんちゃな姿を思い出した。  こういう所変わってないな。  二人で笑いながら改札を抜けると、洋が急に立ち止まった。 「じょ……丈!」 「洋……随分と遅かったな」 「何で……」  改札に立っていた男を見て、洋が激しく動揺する。おいっ誰だ?なんか妙に大人っぽい奴だな。背が高く目にかかるほど長めの前髪。黒髪に彫りが深い精悍な顔立ちだが、目に優しさがある男。俺のような平凡な顔と違って、悔しいが男の俺から見ても明らかにモテそうな大人の魅力ってやつを醸し出してる。  一体洋とどういう関係だ? 「洋……この人誰だ?」

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