55 / 1585
あの日から 10
「洋…この人誰だ?」
安志に聞かれて焦るし、なんで丈が改札まで迎えに来ているのか…その真意が掴めず、心臓がバクバクしてくる。
「えっ!あっ…会社の先輩で寮も一緒の…じょ…張矢さんっていうんだ」
「張矢さん、何でここに?」
「…いや、たまたま見かけたから…」
丈は不愛想に答える。
もしかして怒ってる?
心配になってくる。
「ふーん、あっ俺、洋の幼馴染の安志です。よろしく。洋がお世話になっています。」
なんて安志が変な挨拶するから、ますますおかしなことになりそうで、冷や汗が出てくるじゃないか。
「そう…よろしく。じゃあ私は先に帰るから」
丈はくるりと背を向けてスタスタ歩いて行ってしまった。
振り返りもせずに去っていく。丈の背中がどんどん小さくなっていくのに不安が募る。
丈っ待って!待てよ!
俺は心の中でそう叫んでいた。
「安志!またな!」
「おっおい!洋?待てよ」
だが慌てて丈の背中を追いかけようとする俺の手首を、安志に掴まれて阻止されてしまう。
「なっ!何?」
丈が行ってしまうじゃないか!
「洋…あの人は大丈夫か?お前に変な事しないか?」
心配そうに安志がそんなこと聞くから、びっくりして顔がかぁっと赤くなるのが分かる。
「なっ…何言ってるんだよ!」
変な事どころか、毎晩のように抱かれているとは、死んでも言えない。
しかも俺の方からそれを望んだなんて、絶対に安志には言えない。
「…ごめん安志。俺先輩と帰るから…また連絡するから」
手を振りほどき駆け出そうとすると、後ろからぎゅっと抱きしめられた。
「や…安志!ちょっ!ちょっと…離れろよ!」
「洋、会えて嬉しかったよ」
俺の背中に顔を埋めるように、安志が苦しそうに耳元でささやく。
ここ駅だし…人見てるし…なんでこんな場所で抱きしめるんだよ!
もうキャパオーバーで、丈にこんな所見られたらと思うと、本当に焦ってくる。
「また会ってくれるか」
でも、そんな風に切なそうに、散々守って助けてもらった幼馴染に言われてしまうと…心がぐらついてしまう。
駄目なんだ。
安志じゃなかったんだ、俺が探していた人は…
そんな酷な事は言えない。
お前は俺にとって大切な友人だから…
「俺はお前のこと幼馴染みとしか見れないよ。それでもいいのか?」
「洋…それでもいい。それ以上は望まないから、もう絶対に急に消えないでくれ!」
ともだちにシェアしよう!