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嫉妬するなんて 5
「洋…すまなかった」
涙を滲ませたまま隣で意識を飛ばしてしまった洋の黒髪をそっと撫でてやる。
洋のくせ毛の黒い髪は汗と涙に濡れて、その白いうなじに貼り付いていた。
それが、どれだけ我を忘れて洋を抱いたのかを物語っていた。
本当に大人げない。
嫉妬したんだ、洋とその幼馴染に。
明るく快活そうなその青年が眩しかった。
私は人付き合いが苦手で、年を重ねるうちに面倒になって、他人のために感情を遣うことがなくなっていたのだ。
淡々と研究をして、週に何度か出社してはほとんど人の来ない医務室にいるだけの生活に慣れきっていた。
洋と一緒に住み、こういう関係になって、急に洋の周りの人間たちに興味を持ち始めたら…なんだかあまりに目まぐるしく、周りの人間の感情に振り回されてしまうのだ。
その結果…
自分でも信じられない位乱暴に大切な洋を抱いて…いや、犯してしまった。
洋は怖がって震えていたのに。
洋にとって男から強引に襲われるというのが、一番ダメージが深いというのを知っていたのに、私の心が爆発して自分でコントロールできなくなっていた。
はっと気が付いたとき、腕の中で真青になりブルブルと震える洋がいた。
痛みを堪えていたのだろう、下唇をぎゅっと噛みしめて目を閉じて震えていた。
我に返った時はすでに洋を壊す一歩手前だった。いやもう間に合わなかったのか。
洋…本当にすまない。
躰を拭いてやろうと蒸しタオルを作り、戻ってくると洋が目を覚ましていた。
「丈?何処へ行っていた?」
こんな私なのに、まだその細い腕を差し出してくれるのか。
「本当にすまない」
さっきから何度も心の中で詫びた言葉をきちんと口に出して伝える。
「いや…俺が嘘をついたのが悪い…さっき見ていたのか?」
「あぁ…あの幼馴染は洋のことが好きなんだな」
「…」
少し顔を赤らめて洋はコクリと頷く。
「安志とは赤ん坊の時からの付き合いだよ。高校の頃…その…よく…いろんな奴に襲われそうになっているところを助けてもらっていたんだ」
「そうだったのか…そんなに前からの…」
敵わないなっと心で呟く。
「あいつに高校の時、好きだって言われたんだ。でもその時…俺、本当に精神的に参っていた時で、突き放すようにあいつからも離れて…アメリカに行くときも一言も言わなくて…だから、あいつは俺のことを、この5年間ずっと探していたって聞いて…」
「そうか…」
「だから、今日は無下に出来なかった」
「でも…俺は…丈だけだから。こんな風にされても丈にならいいんだ」
「嫉妬するなんて、すまなかった」
「…いや…それだけ丈が俺のこと想ってくれているんだって、噛みしめたよ」
洋はやつれてはいたが、やさしくふんわりとした綺麗な微笑みを浮かべていた。
その微笑みにどれだけ救われたことか。
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