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月輪の約束 1
あれから季節は巡り、もう7月になっていた。
4月から始まったテラスハウスでの共同生活も順調だ。
洋と私の関係は変わらない。上手くいっている。
週末になると私は洋を胸に抱き、平日は帰宅の遅い洋のために夕食を作ってやり、ソファで音楽を聴きながら1日にあった話などをゆったりとして、共に手を繋ぎ眠りにつく。
そんな穏やかな二人だけの時間が愛おしい。
時計を見ると21時。そろそろか…
耳を澄ませば、バイクの音が遠くから近づいてくる。
洋が帰ってくるな。
バイクの音が停止し、しばらくすると洋の爽やかな軽やかな声が玄関から聞こえてくる。
「ただいま!丈、遅くなってごめん」
「お帰り」
「今日は何?お腹空いたよ」
「洋もだいぶ食べるようになって、太ってきたな」
「太ってなんてない!」
途端に顔を赤らめて怒り出す。
すぐに顔を赤くして照れるのが洋の可愛い所だ。
最初はツンと澄ましていたのに、最近は私の前でだけ表情を緩めてくれるようになった。
コロコロと変化する洋の愛らしい表情に思わず笑みが漏れる。
「そうか?最近なんだか抱き心地がいいが…」
「なっ!何を言うんだよ!お前って奴は…帰ってくるなり…」
こんなに躰を重ねているのに、洋は今だにそういうことをストレートに言われると恥ずかしいようだ。
「あぁ抱いていると特に腰回りの肉付きが良くなったよ、初めて会った頃はガリガリだったのにな」
「こ…腰?」
「あぁ丸みを帯びてきたな」
「!!」
追い打ちをかけるように付足すと、いよいよ真っ赤になって部屋に急いで消えていった。
洋はどんなに抱いても、その品の良さを崩すことはなくいつも可愛いままだ。
もちろん太ったなんて真っ赤な嘘で、相変わらずほっそりとした躰つきのままで、ベッドの中で裸で横たわる洋のその姿だけで、私はいつも欲情しているのだが。
しばらく経っても戻ってこないのでドアの前から声をかけてやる。
「洋、食べないのか?」
「…」
「そうか…せっかく作ったのに…残念だよ」
「…」
一度拗ねるとなかなか機嫌を直せないのも変わらない。
「洋…いい話があるんだか、聴きたくないか」
「…」
ふふっ
今頃部屋でどうしようと悩んでいるはずだな。
「来週学会があって急に出張で海外へ行くことになったんだよ」
「…それで?」
「金曜日に仕事が終わるから、洋も一緒に行かないか?」
「えっ!?」
ーガチャー
我慢できなくなったのか部屋から洋が勢いよく出てきた。
「いいのか?」
「あぁ…洋は仕事が終わったら夜の便で来るといい」
「丈と旅行か!いいね。ちょうど夏休みを取りたかったよ」
途端に花が咲いたように微笑む洋を見ていると、誘ってみてよかったと思う。
「それで、どこへ行くんだ?」
少し興奮気味に話す洋が、いつもよりあどけなく幼く見えて可愛かった。
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