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星降る宿 8
無心で泳いだ。
子供の無邪気な歓声や母親が子供を優しく呼ぶ声が心地良くて、魚の群れになったように、何度も何度もプールを往復した。
「あぁ疲れた」
「洋、もうそろあがろう」
「そうだな」
一体どの位泳いだのか?
すっかり夏の夕陽がオレンジ色に染まっている。
子供連れも去り、広いプールには俺と丈だけになり、静かな時間が流れていた。
俺を真っすぐに見つめる濡れた丈の唇が色っぽい。
逞しい胸板の筋肉の程よくついた躰を見ていると、その胸に抱かれている自分の姿を思い出し、一人赤面してしまう。
「何をじっと見ている?」
「いやっ…なんでもない」
頭の中でそんなこと考えていて、見惚れていたなんてばれたくない。
慌ててプールサイドを走ったら、水たまりで滑ってしまった。
「あっ!」
「洋っ危ないっ!」
ドボンっ
プールに見事に落ちてしまった俺をすかさず丈が飛び込んで、支えてくれる。
「あっ」
ドクンっ心臓が飛び跳ねるかと思った。
そして誰からも見えないように、頬に張り付いた濡れた髪の毛を撫でながら、そっと丈の唇が近づいてくる。
触れるか触れないかのさりげない軽いキス。
「洋…危ないな。溺れたらどうする?」
水の中で丈が俺の腰を力強く抱き留める。
「…丈っ…!」
そんなことされたら、ますます力が抜けちゃうじゃないか…
水の中で触れられる丈の手が、いつもと違う感触でぞくっとするよ。
夕陽色の光がプールの水をオレンジ色に綺麗に染めあげ、溶けていく。
俺の心も同じ色になって優しく染まっていく…
満たされているな。
そう…俺は今満たされている。
こんなに疲れるまでのびのびとプールで泳ぐことが出来て、俺の大事な人とこうやって二人抱き合ってプールにいれる。
こういう自由で開放された気分は一体いつぶりだろうか。
「丈…部屋に戻ろう」
「もう?」
「あぁ…そろそろ…俺…」
「そろそろなんだ?」
「っつ…だから…その…」
まさか…早く抱いて欲しいなんて言えるはずないじゃないか?
でもこの少し疲れた身体を丈に預けたらさぞかし気持ち良いだろう。
そんなことを考えてしまう自分に苦笑していると、丈が提案してきた。
「次は屋上の露天風呂に行こう」
「それ…無理…変なことする気だろう?そこは他の人がいるから嫌だ」
「まぁそう言うな。この宿の展望露天風呂は星がよく見えるそうだよ」
「星…?」
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