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星降る宿 10

チェックイン時に宿の女将から、天空を見渡せる露天風呂が新しく出来たと勧められたので、洋を連れてやってきた。 洋が寝てしまったので来るのが遅くなったが、お陰で露天風呂は貸し切り状態だった。 「ふぅ…人がいなくて良かった」 「今は貸し切りだな」 恐る恐る浴衣を脱いだ洋も、展望露天風呂にやって来た。 誰もいないことにほっとした表情を浮かべ、肩までお湯につかり空を見上げた。 「うわっ凄い絶景だな!」 「洋…気に入ったか?」 「あぁ星が凄い!」 「何が見える?」 「夏の大三角形!」 「へぇ…教えて」 「 夏の夜空は天の川がもっとも美しい季節だ。ほら今日は天の川もよく見えるね。天の川を中心にある3つの大きな星は、こと座のベガ、わし座のアルタイル、十字形に並ぶはくちょう座のデネブというんだ。」 「洋…妙に詳しいな」 「えっ…うん、よく一人で見ていたから自分で勉強したんだ。変かな?」 「いや…もっと教えて」 「それで、日本や中国では七夕の星として、ベガを織姫星、アルタイルを牽牛星と呼んでいるんだ。丈にも見える?あの星とこの星のことだよ。後ね、3つの星を結ぶと、大きな二等辺三角形になるから『夏の大三角形』っていうんだよ」 夢中になって説明してくる洋が、子供みたいに無邪気で輝いて見えるので、思わず目を細めてしまった。へぇ…こんな楽しそうな表情もするんだな。 そうこうしていると何人かのグループが入ってきたので、私は洋の手をひいて、月明かりが届かない暗い場所へ移動した。 「洋、こっちへ」 「あぁ」 岩陰の曲がった所は、入り口からちょうど見えにくい場所になっている。 人がいないことを確かめてから、私はそっと洋の背後にまわり、洋の腰を両手で後ろから抱きしめた。 「えっ!丈?あっ…ここではダメだ。まだ近くに人が…」 途端に洋の躰はびくっと震え、湯で上気した頬が、さらに桜色に染まった。 「洋…少しだけ…触れても?」 答えなんて待たずに手を腰から伸ばし、そっと洋の中心に添えると、肩を震わせきゅっと耐えるように俯きながら下唇を噛んだ。 「んっ…あっ…やめろ…」 それから、のぼせそうになる程の時間をかけ、私はゆっくりお湯のうねりに合わせ、洋のものを優しく手で扱いた。その度に、洋の肩が小刻みに震え、手で押さえた口元からは少しずつ声が漏れだして来た。 「はぁ…あっ、ううん…丈っもうやめてくれ…ここでは無理だ」 「どうして?」 「だって…俺が我慢出来なくなる!…もう、出ちゃう…」 熱い吐息とともに、洋は困惑したような表情を浮かべている。 そして人に気がつかれないように、声を出さないようにと必死に手を口にあてて耐えている。そんな様子がひどく愛おしい。 見上げると、空には満天の星が降り注ぐ。 湯の中で生まれたままの姿で抱き合っている洋と私は、まるで広い宇宙の一つの星になったような錯覚に陥る。 そう…ここは、まるで二人きりのプラネタリウムのよう。 「丈っ…俺…もう…もうのぼせるから上がってもいいか」 我慢の限界の洋が、顔を赤らめ必死に懇願してきた。 私は…こういう洋を見たくて、つい苛めたくなってしまうのだ。

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