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道は閉ざされた 2
駄目……
駄目だ!
絶対に駄目なんだ!
義理といっても父だ!やめろ!
必死に脱がされないように押さえたベルトも外され、下着ごと一気に脱がされてしまった。羞恥心が一気に躰を駆けあがる。
「いやだっー!」
なっ何をするつもりだ!
まさか、そこまで?
恐怖で顔から血の気が引いて真っ青になり、俺の躰はガタガタと震え出していた。
「洋!大人しくしなさい! 私の力を持って制すれば、あの同居している医師なんてあっという間に左遷できるんだよ」
「なっ……卑怯だ」
「どうとでも。洋……私の可愛い洋……今から沢山愛してあげよう」
「父さんっ!やめて!俺の父さんだろう?こんなことしないで、お願いだから」
恐怖で顔はますます青ざめ、目には涙が浮かんで……父の顔が霞んで見えない。
ただただやめてほしい。これは間違っている!
だが父の手は一向に止まらなかった。
そして顔を胸元へ近づけてきたかと思うと俺の乳首をべろりと舐めあげ腹に手を這わせ、さらに下半身へと伸ばしてきた。
「ひっ!」
なんとか逃げようと、俺は馬乗りになってくる父を押しのけようと躰を暴れさせ必死に抵抗した。だがその瞬間思いっきり頬を叩かれた。
「つっ……」
「洋!暴れるんじゃない!さっきのあの医師のことが大事なら、大人しく私に抱かれなさい」
「……丈は関係ない!やめて!」
抵抗していた手から力が抜けていく。
丈……許してくれ。
父がずっと怖かった。
俺を見つめる目が怖かった。
母が再婚した日から俺はずっと怖かった。いつかこうなってしまうような予感があった。やっぱり俺はいつだって、こんな運命しか背負ってない。抵抗することをやめ躰から力を抜いて目を閉じると、昨日までの温泉旅行のことが思い出された。
穏やかな丈との二人きりの旅行。
オレンジ色に染まるプールでの熱い抱擁。
二人だけのプラネタリウム。
星降る宿での優しい口づけ。
あの時の俺は身も心も満たされていた。丈に抱かれてから俺はいつだって満たされていた。
「ふっ……洋そうだ。いい子だね」
「……」
「んっこれは?なんだ?」
父が俺の胸元にネックレスに気が付いて、不快そうな声をあげた。
「あっそれは……」
「はっ!差し詰め、あの医師とのペアとでもいうんだろう?おふざけにもほどがあるぞ。洋っ」
ブチッ──
革紐ごとネックレスを引きち切られ、ホテルの部屋の隅に強く投げ捨てられた。
「やっ!」
綺麗な弧を描いて落下し、丈との大切な月輪のネックレスが視界から消えていってしまった。
父に押し倒されている俺は、ソファから半ばずり落ちながらも、そのネックレスが落下していく様子をスローモーションのように眺めていた。
丈っ…!!
もう俺の瞳には、なにも映らない。
躰を這う気色悪い舌の感覚も、どこか他人事だ。
現実を受け入れられない頭は、意識を過去へと飛ばしていた。
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