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道は閉ざされた 6

「痛っ…」 躰が鉛のように重い。 目が覚めたらすべて夢だったらいいのに。 目が覚めたらいつものテラスハウスで、横には丈がいてくれたらいいのに。 そんな願いもむなしく、カーテンを閉めきったままの昨夜の情事の匂いでむせ返るような暗いホテルの一室で、目が覚めた。 「…父さん…?」 恐る恐る呼んでみるが、返事はない。 いないんだ。良かった。 重い躰をなんとか起こし、シャワーを浴びに行く。 とにかく躰がべた付いて気持ち悪い。 父の匂いが絡みつくようで吐き気がする。 浴室の鏡に映る自分の姿を見て、息を呑む。 痣だらけの躰。 丈につけてもらったキスマークはすべて上書きされ、どす黒く鬱血している。 抵抗した時についたひっかき傷が、全身に散らばっている。 ひどい有様だ。 俺は…本当に無理矢理…父に抱かれてしまった。 その事実が突き刺さる。 「うっ…」 途端に涙と吐き気が込み上げてくる。 「うっ…うっ…俺はどうして…これからどうすれば…」 よろめく自分の躰を自ら抱き留めて壁にもたれる。 泣くまいと上を向くが、堪えきれない涙が一粒また一粒と床に落ちていく。 足元にどろりと流れ落ちていく情事の痕跡。 すべて流してしまいたい。 記憶から抹殺したい。 だが、痛みに悲鳴をあげる躰を洗っても洗っても、それは消えることはない事実。 丈に会いたい。 だが、もう会えない。 こんな躰になって、一体どんな顔をして会えるのか。 行く場所も逃げる場所もない俺。 ここで父の帰りを待つことしか出来ないなんて、なんて無力なんだ。 馬鹿げている。 シャツは昨日破かれボタンが飛んでしまい、とても人前で着られる状態ではない。 財布も、車の中の旅行鞄に入れたままだ。 あっ携帯。 丈にせめて連絡だけでも、しばらく帰れないと伝えたい。 昨日俺に何があったのかだけは絶対に知られたくない。 だが、ジャケットのポケットを探すが携帯が見当たらない。 そうこうしているうちに部屋のドアが開いて、父が戻ってきてしまった。 顔を見るだけで、呼吸が出来なくなるほど苦しい。 顔も会わせたくない存在なのに、俺は無力にもただ部屋に迎え入れることしかできない。 「洋いい子にしていたかい。あぁシャワーを浴びていたのか」

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