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明けない夜はない 5
「ただいま」
「お帰り安志」
「母さん、洋は?」
「寝ているわ。なんだか凄く疲れていたみたいで、熱もまだずいぶん高いの」
「そうか。ちょっと俺見てくるよ」
「あっ起こさないように静かに入るのよ」
「分かってるって」
今、洋が俺の家にいて俺の部屋で寝ている。それが現実だと思うと、心が高まってしまう。それにしてもさっきの電話は一体何だったのか。どうして洋は家に帰っていないのか。それも1週間も。じゃあ今何処に住んでいるのか。どうしてあんなに壊れそうなほど辛そうな顔をしていたんだ。
また何かあったのか。
俺には話してくれないのか。
そう思いながらドアを開けると、洋が俺のベッド寝ていた。ぐっすり寝ているようだが、熱のせいか寝息が荒い。俺は洋の横にしゃがんで、久しぶりに会えた洋の顔をじっと見つめてみると、目元には涙の乾いた跡があった。
馬鹿だな……またひとりで泣いていたのか。
唇が渇いていることから、熱が高いことが分かる。額にはうっすら寝汗をかいて酷く辛そうだ。病んでいても、ずっと間近で見ていたいと思える美しい顔は変わらない。
洋……高校時代よりさらに美人になったな。
ずっとずっと見守ってきた俺の大切な幼馴染だ。こんな風にまた俺のベッドで寝ている姿を見守ることが出来るのが、不謹慎だが嬉しい。
「んっ」
洋がうなされたような声を出す。
「どうした?」
「み……水……欲しい」
熱が高いので喉が渇いているのだろう。
「ほら飲んで」
傍に置いてある水を渡すが、洋はうつらうつらしたままで、寝たままその小さくて可愛い口をパクパクするだけだ。
ゴクッ──
俺の喉が鳴る。いいか、これは病人に水を飲ませるための行為で、やましいことなんて何もないんだ。
「洋……水を飲ませてやるから」
そっと洋の背中に手を回し上半身を少し起こしてやる。それでも洋は覚醒しないで、無意識に水を求めて口を開けている。俺は意を決して水を自分の口に含み、そっと洋の唇に近づいた。男なのに洋の唇は小さく引き締まっていて桜貝のように上品に染まっていて、一度でいいからここに触れてみたいと思っていた。
恐る恐る唇を重ねてみると、洋の唇は熱のせいで火照るように熱かった。そっと水を流し込んでやると、コクッっと洋の喉が鳴った。
「……もっと」
うわ言のように水を求めてくるので、俺の心臓は早鐘のように鳴り、変な汗が出てしまう。いつしか俺は水を飲ますためということを忘れ、洋の唇を吸い続けていた。
「んっ……苦し」
洋は息が苦しくなったようで、肩で息をしている。それでも止まることない俺の口づけ。美味しい。洋の唇はなんでこんなに美味しいのか。
「んっ……丈……」
洋の綺麗な唇から発せられた「丈」という言葉にドキリとした。
お前が何故……その名前を呼ぶ?
俺が口づけを慌てて離すと、洋はそのままベッドにドサッと倒れ込み、その閉じた眼から涙が溢れ、そのまま頬を伝って零れ落ちた。
「……どうして? 丈……俺を離さないで……ここにいて」
そう確かに呟いた。
なんてことだ……俺はかける言葉が見つからなかった。
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