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君を待つ家 1
「ふぅ……ただいま」
「洋、遅かったな」
「うん、少し疲れた」
「おいで」
すぐに丈が抱き寄せてくれる。午前中はkaiとのことで動揺し、午後はハードな授業、鞄の中には宿題がたんまりと。
それでも丈の広い胸に躰を預けると、一気に気が緩んだ。丈の匂いを嗅ぐとほっとするよ。俺が帰る場所はここなんだなとつくづく思う。
「洋、お腹空いただろう。夕食は外に行くか。それともまたルームサービスにするか」
「……絶対、外がいい」
またkaiとここで顔を合わせるのは、気まずいじゃないか。そもそも丈がルームサービスを頼んだりするから、こんなことになったと不満にも思う。
「洋どうした? 何を怒っているのだ?」
「怒っていない。腹が空いたから」
「ふふっじゃあ仕度をしてくるよ」
「あっそういえば住む家は決まった? 」
「あぁその話もあって、外にいこう」
ホテルの長い廊下を丈と肩を並べ歩いていると、他の部屋にルームサービスを運んでいる最中のkaiとすれ違った。
一流ホテルのルームサービス係としてサラサラの短髪を整髪料でしっかり整え、糊のしっかり効いた制服姿で形式的な会釈をし素知らぬ顔ですっと横を通り過ぎていった。
だが目だけはしっかり俺のことを見つめていた。
ああぁ……なんというタイミングだ。丈と一緒にいるの、もうばっちり見られたよな。
「洋、何を百面相している?」
見上げると丈が隣で快活に笑っていた。丈はこの国に来てから日本にいる時よりも、明るくラフな感じになった気がする。そして俺も感情をため込まずストレートに出せるように少しずつなってきている。
この国の空気と水が俺達に合うのか。
ここは昔の俺たちが生きた、君たちの国だからなのか。異国にいるのに、こんなにもしっくりと来るのが不思議で仕方がない。
「洋は何を食べたい?」
「何でもいいよ」
「じゃあ今日は中華でいいか。飲茶のおいしそうな店を見つけたから」
「あぁそうしよう」
二人で小綺麗な中華料理店に入り夕食を食べた。飲茶の蒸籠の湯気に霞む世界は、幸せで満ちていた。好きな人と共に食事をする。それだけのことが、今の俺にはとてもありがたいことだ。あの時もう二度と出来ないと思っていたから。
こんな日がまた来るなんて……幸せだよ。
丈……俺は今とても幸せだ。
****
「洋、帰りに一件物件を見てもいいか」
「あっもしかして俺達の住む家が見つかったのか」
「昼間、業者から洋が気に入りそうな家を紹介してもらったから」
丈に誘われてタクシーに乗った。この国には坂が多い。車の窓から外を振り返ると煌びやかな街のネオンがどんどん小さくなっていく。そしてどんどん夜空へ昇りつめているような錯覚に陥る。
「いいね。この感覚」
「そうだろう」
辿りついたのは、小高い丘の一軒家。
いつかどこかで泊まった気がする……そんな家だった。
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