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君を待つ家 2
小高い丘の一軒家の前には立派な枝ぶりの大きな1本の樹があった。その樹はいつか見たことのあるものだった。
「ここ?」
「そうだよ」
「以前来たことがあるような……」
「洋もそう思うのか」
「あぁ」
「私もそう思っていた。特にこの家の前にある。この樹に見覚えがあってな」
「俺もそう思った。丈……明日は語学学校の前に、あの王の墓に行ってみようと思う」
「そうだな、私もそう思っていた。一人で大丈夫か」
「あぁ丈は仕事だろう?」
「だが……心配だ」
そう言いながら丈が背後から俺の躰をきゅっと抱きしめてくれた。温もりを背中からじんわりと感じ、幸せを噛みしめた。
俺は独りじゃない。肌を合わせる度にそう実感出来る。
「洋、この家でいいか」
「そうしよう、ここで待とう」
バックハグされる形で、俺達は暫くその樹の下に佇んでいた。秋風が静かに頬をかすめていくのは、涼しくて心地良い。
「ここ……いいね」
「あぁ落ち着くな」
そして丈の肩に抱かれ、振り向きざまに口づけをした。二人の近づく吐息は風に舞い、何かを誘なうように夜空に散った。
いよいよ始まるな。
きっと……もうすぐやってくる。
俺達がこの世で結びついた理由が分かる時がやってくる!
****
翌朝、俺は午前中が空いていたので、思い切ってあの王様の墓を訪ねた。
歴代の王が眠る故宮。ずらりと並ぶ王の墓を一つ一つを丁寧に見ながら石畳の道を歩んだ。
そして前回丈と一緒に来て、触れた途端に気を失ってしまった王を護ったと言われる名将の墓の前に立ってみた。
きっと、この武将だ。この人が過去から俺を守ってくれている人だ。改めて墓の前に立つとそう確信できた。もっとこの人について詳しく知りたい。異国の言葉が細かく彫ってあるが、残念ながら今の俺には解読不可能だ。
そこでスマホを出して写真に収めた。まずはこの文字を知ろう。何が書いてあるのか知りたいし、知らなくてはいけない。
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