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君を待つ家 6
「父さん、早く中身について話してください」
「あぁ……」
「我が家の広大な敷地と屋敷は、元々はお前もこの国の誰もが知っているこの国の英雄ヨウ将軍の生家だったそうだ。つまりだな。我が家の先祖は偉大なヨウ将軍の一番の側近でご下賜を受けたことになる」
「えっ!あの有名なヨウ将軍の?」
「あぁ私利私欲にまみれず清廉潔白に生きぬかれたヨウ将軍だ」
驚いた。突拍子もない話だった。
「でもその将軍と我が家に、そんなに代々伝えられて行くべきものがあったのですか」
「少し特殊な話で……私もわが父から伝えられた時、最初は信じられなかった」
「そんなに摩訶不思議な話ですか」
「あぁ」
「分かりました。でも他でもない父さんが話すことですから、俺……信じます」
「ありがとう。kai……では、この手紙を読んでみなさい」
父の手で重箱の中から恭しく取り出された古びた書簡。
そこに書かれているのは過去の人物からの切なる願い。
手紙を開くと、その人物からの想いが溢れ出て来た。
****
カイ──
これはお前に託す俺の想いだ。
俺がこの世から去った後、我が屋敷と財産のすべてをお前に委ねる。
お前ならきっと守ってくれる。お前の子孫ならきっと伝えてくれる。そう信じているから。
俺にとって唯一無二の友であり、俺の生涯の部下であったカイだから。
遠い遠い先にきっと現れるだろう。ヨウと名乗る私に似た人物とその傍にきっといてくれるであろうジョウという医官が。
俺達の願い、生まれ変わりのヨウとジョウ。ふやりはきっと一緒に暮らし、片時も離れず寄り添っているはずだ。
その者達にお前の子孫が出逢う時が必ず来ると信じている。その者達に伝えて欲しい。
俺のこの想いを。
俺の強い願いを。
君の傍にきっといるヨウとジョウに伝えて欲しい。
まもなく君たちが生きている時代へ『にほん』という国から来た赤い髪の女と我が国の二十九代目の王がやってくるだろう。眩いばかりの雷光に包まれて到着するはずだ。その二人のことを頼みたい。
王様は『骨肉腫』という名前の病気を患っている。私の時代では治せない、死を待つしかない病気なのだ。それをどうか君たちの時代の医術で治して差し上げて欲しい。そして願わくば、健康になられた王様を私のもとに、赤い髪の女は本来の場所へ帰して欲しい。
過去へ帰す方法を遙か未来の俺の生まれ変わりが知っているかどうかは分からない。
俺がそちらへ二人を送り出した方法は、雷光を使った秘儀だ。強い想いと願いが溢れた時に、その力は最高潮になり、とてつもない時空をかき混ぜるほどの力となるようだ。
事実、稲妻の光に包まれて二人は私の前から姿を消した。
君たちの役に立つか分からないが、私がジョウと分かち合った月輪の輪を手紙とともに託す。
きっときっと信じている。君たちが救ってくれると。どうか信じてくれ……お願いだ。
****
手紙には乳白色の指輪のようなネックレスが添えられていた。
白く仄かに静かに輝いている。
手紙から、凄まじい程の強い気を感じる。読み終えて、躰が震え出すほどの。
信じるしかない。信じたくなる切なる願いの籠った手紙だった。
「父さん……これ」
「あぁ信じられないだろう」
「でもどうして俺の名前をヨウ将軍の部下と同じkaiとつけたのですか」
「それはな……お前が生まれた時、空に雷が轟いていて、もしかしたらこの子が将来ヨウとジョウに出逢う人物なのかもと閃いたのだ。手紙が……出逢って欲しかった、救ってやりたくなるような切実な願いだったから一縷の望みをかけたのだ」
「そうでしたか」
我が家にまさかこんなに不思議な言い伝えがあったとは。驚くべき内容だった。でもその手紙を読み終えた時、漠然としてはいたが強く確信が持てた。
もしも近い将来……ヨウとジョウに出逢ったら、俺に出来ることを必ずしてやるつもりです。そう誓い父と別れた。
「ヨウ将軍の生まれ変わりか。どんな人だろうか。俺は会いたい。きっと会える! もうすぐ! 」
そう口にすると、言霊のように躰に力が宿った。
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