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すれ違う 2

 ドンっと誰かの胸元にぶつかったので、慌てて顔をあげるとkaiだった。ホテルの制服をビシっと着こなし、髪を整髪料で整えた凛々しい姿だ。 「kai……」 「どうした? 洋、そんなに慌てて」 「あっすまない」  丈とのことで気が動転していた俺はなんだか気まずくて、それ以上のことを話せない。 「今から部屋に戻るのか」 「ああ」 「大丈夫なのか」 「えっ何が? 」 「いやなんだか……顔色が悪いから」 「……大丈夫だ」  kaiが客室のあるフロアのボタンを押してくれた。そっと見守ってくれるその視線が温かい。それに加えて丈の奴酷いじゃないか。誰だよっ、あの女の人。ふつふつと沸き起こる嫉妬と怒り……きっと些細な行き違いだって分かっているのに、今日の俺は本当に駄目だ。 「洋、疲れているみたいだな。夕食まだなのか」 「あっ……そうだ」 「もしかして、それ食べるつもりだった?」  手に握りしめたサンドイッチを見つめて、kaiが尋ねてくる。 「あぁ」 「俺さ、もうすぐ仕事終わるんだ。ちょっと待っていて、外に食べに行こうよ。温かいものを食べれば落ち着くから、なっ行こうよ」  正直……迷った。  丈がどう思うか分からない。まだkaiのことをきちんと話せてないから。でも今俺は冷静に丈と顔を合わせられない。 「……行くよ」 「了解!すぐに着替えてくるから下のロビーで待っていて」 「あぁ」  客室の扉の前でkaiと別れた。その時ふと廊下の曲がり角に丈が立っていることに気が付いた。そして去っていくkaiと、こちらへ足早に向かってくる丈とがすれ違った。kaiは一瞬立ち止まったが、丈は俺めがけて真っすぐ歩いてくる。 「洋!さっきどうして逃げた?」 「逃げてなんかない、部屋に戻ろうと思っただけだよ」 「話を聞け! 」 「嫌だ」  一体俺は何でこんなにイライラしているのか。今、丈と話すと喧嘩になってしまいそうで、逃げだしたくなる。 「……俺、ちょっと出かけてくる」 「何処へ行く? こんな時間に」 「外に食事に行く」 「洋、さっきのは……」  言いかける丈の言葉を遮り、俺はその場を離れようと後ろに一歩下がった。 「丈、悪い。今日はちょっと駄目みたいだ。少し外で気分転換してくるから」  そう伝えると丈が怪訝な顔をした。 「洋、さっきの男と一緒に行くのか。ずいぶん仲良さそうだな。ホテルマンといつの間にそんなに仲良くなったのだか。まったく隅に置けないな」  俺の態度にむっとした丈も、俺に対して変な言いがかりをつけてくる。 「何だっていいだろ! 丈だって女と一緒だったくせに、俺にだって一緒に食事する友達位いる!」  kaiとの不思議な縁を、丈にいち早く伝えたくて……丈に甘えたくて帰って来たのに。連絡も寄こさず女の人と食事をしているなんてひどいじゃないか。こんな嫉妬は女々しいと思いながら、このことがひかかって素直になれない。  丈は参ったなという顔をして、大きく溜息をついた。 「あれは職場の同僚だよ。偶然このホテルで今日はセミナーがあって、その後流れで食事をしただけだよ。他にも人がいただろう。私の歓迎会でもあったので抜け出せなかっただけだ」 「あっそう!言い訳はいいよ。それならそうと連絡くらい寄こせよ! 」 「何をそんなに怒ってる? 連絡はしたじゃないか。メモを部屋に残していたはずだが」 「……さっき……俺のこと見て、しまったっていう表情になった」 「洋、それはお前の思い込みだ。こうやって心配で部屋まで見に来ているのに」 「……」  メモなんて見てないし、そんなの知らないし、もう、どうでもいい。とにかく俺はこのもやもやした感じを素直に認められず、幼い子供のように機嫌をすぐになおすことが出来ず、丈を横を通り抜け廊下を走った。 「洋、待てよ」  後ろから丈の呼ぶ声が聞こえたが、そのまま振り返らなかった。  くそっ!こんなんじゃ駄目だ。  こんな喧嘩をしている場合じゃない。  頭ではちゃんと理解しているのに、素直になれない自分が嫌になる。

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