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すれ違う 1

「kai今日はありがとう、またな」 「次はちゃんとレッスンしような」 「あぁそうだね」  すっかり気軽に話しかけてくるkaiと、そのままランチをして別れた。kaiは仕事へ戻り、俺は午後は語学学校の授業をみっちり受け、十九時頃にようやくホテルに戻ってきた。 「ただいま、丈」  あれ……返事がない? 珍しいな。まだ帰っていないのか。 「いないのか」  きっと仕事が忙しいのだろうか。俺のせいで日本での仕事を駄目にしてしまったのだ。だから丈の仕事について、何も言える立場じゃない。まだ俺は携帯を持っていないので、丈が今、何処にいるのか掴めないのがもどかしい。  それにしても遅いな。  風呂からあがってしばらく待つが、まだ丈は帰ってこない。丈がいない。それだけで途端に寂しくなってしまう。いつからだろう。こんなに一人が苦手になってしまったのは。丈に抱かれてから彼の温もりが1日中恋しくなってしまう自分に驚いた。  ガラス超しに異国の街を眺めるていると、夜のネオンが瞬く華やかな世界に比例して、ますます寂しさが込み上げてくる。  早く今日会ったことを話したいのに……いつも俺が帰るまでには戻っていて、夕食の段取りをしてくれるのに、今日はこんなに遅くなるって聞いていないよ。  俺は夜中まで勉強していて寝不足だったから、朝、丈のことに気を配れていなかった。ここ数日、課題に追われ、丈に誘われても先に休んでもらったりして触れ合っていなかった。丈が寂しそうにしていたことに気づいていたのに、素知らぬふりをしていた。ここ最近の自分の行いに対しての反省点がどんどん浮かんできて、自己嫌悪に陥ってしまう。 「本当に遅いな……丈の奴」  時計の針は二十二時を指していたが、丈はまだ戻らない。何かあったのか……それとも残業なのか。流石にお腹も空いたし、部屋に伝言でもないかと思い、ホテルのロビーへ降りてみた。 「Excuse me. Is there a message in the room?」  何か部屋に伝言はありませんか? 「I'm sorry. Unfortunately there is nothing.」  申し訳ありません。あいにく何もございません。  フロントには何も届いていないそうだ。そうか……伝言もないのか。では、一体どこへ?  仕方がなくホテルのショップでサンドイッチを選び、レジで並んでいると奥のレストランが視界に入ってきた。 「えっ」  思わず声が出てしまった。だってそこには丈がいて、しかも一人じゃなかった。楽しそうに誰かと会話している。ホテルのムードある暗い照明の中、目を凝らすと隣には美しい女性が座っていて、二人で楽しそうに会話をしながら食事をしていた。 「……何で?」  ずっと待っていたのに、なんだよ。誰だ、その人……会社の人? どうして? 俺に連絡もせずに。  じっと目が離せないでいると丈と目が合った。一瞬丈がしまったというような顔をしたから、ますます胸がぎゅっと潰される思いがした。心臓がバクバクする。日本にいる時だって、会社で看護師の女性たちと歩いている姿は何度も見たじゃないか。ただの仕事上の付き合いだろう。そう頭の中では納得しようとしているのに、心がついていかない。  俺はまだこの地に馴染めてないのに、丈はすっかり溶け込んで、あんなにも余裕の表情を浮かべて、女の人と食事をしているなんて……狡い!  さっさと部屋に戻ろう。  今は顔を合わせたくない。  俺は嫉妬しているのか。  ぐちゃぐちゃな想いで頭がパンクしそうだ! 「洋っ」  丈が席を立って俺の元へ駆け寄ろうとしたのを察知して、俺は慌てて到着したばかりのエレベーターに飛び乗った。その時ドンっと勢いよく人にぶつかってしまった。

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