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邂逅 3
「洋、あの墓の写真もう一度見せてくれ」
「あっうん、これだよ」
ヨウ将軍の墓標の前に置かれた石碑。見慣れぬ文字の羅列で俺には残念ながら解読不能だった。
「これはこの国の古代文字のようだ。ちょっと待ってろ。俺の父なら分かるかもしれない」
そう言ってkaiは俺達を残して部屋から出て行ってしまった。一体何が書かれているのか。
不安が募り丈を縋るように見つめると、すぐにギュッと力強く手を握ってくれた。
「洋、大丈夫か」
心配そうに覗き込む、丈の黒い瞳に宿る深い眼差しに安堵する。
「あぁ……なんとか」
怖くないといったら嘘になる。こんな現実にはあり得ない、タイプスリップの物語を受け入れるなんて。でも俺の躰の中にどんどん蘇る過去の記憶。俺の身に起きた数々の事件。更に目の前には手紙のヨウが暗示した通りの丈がいる。
もう信じるしかない。
進むしかない。
受け入れるしかないだろう。
指と指を交差させ、丈がその握りしめる力を強くしてくる。
絆……
俺と丈は、二度と離れないように繋ぎとめあっているんだ。丈と躰を重ねることの意味は、もう絶対に離れないという信頼を繋ぐ意味があるのと実感した。
「丈がいるから……信じられる」
「洋……私は洋ほど過去の記憶が定かではないが……でも信じている。全身全霊で洋を守りたい」
「丈……それは俺の台詞だよ。俺はただ守られるだけじゃもう嫌だ。俺の心と体のすべてで、丈のことも守りたい。もう二度と離れたくないから」
口から出てくる素直な言葉に、丈の表情は緩んだ。普段は冷静沈着で喜怒哀楽の少ない丈の貴重な微笑。俺だけに見せてくれるのが嬉しいよ。
丈は机の上に置きっぱなしになっていた月輪のネックレスを手に取り、俺の首にかけてくれた。
「これはいつも身につけていろ」
丈も続いて自分の首に片割れの月輪をかけ 俺を引き寄せ、そっと抱きしめてくれた。そして俺の顎を掬った。
「あっ……」
ここがkaiの家たとは頭では分かっているが、我慢出来ずに目を閉じて優しい口づけを受け入れてしまう。
唇が合わさった瞬間……俺の脳裏に遠い過去の出来事がまた一つ鮮明に浮かび上がった。
カラン……
二つの月輪がぶつかる音。
それは過去が今蘇る合図のように……ヨウ、君の生家で鳴り響いた。
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今、重なる二つの月は 、まるで夜空に浮かぶ月のように …… 二人の胸を白く暖かく灯した。
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『悲しい月』春の虹 ~重なる月・2~より
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