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邂逅 14
「あなたがヨウさんの生まれ変わりなのね。面影があるわ」
赤い髪の女は俺の前にそのまま近づいて、そして納得したような表情で頷いた。そして俺の隣に佇む丈のことを、真っすぐに見つめた。
「信じられない。生きてるのね。あなたがジョウさんの……お願い、この子を助けてあげて…」
丈の腕に託された少年は、意識が朦朧として苦しそうに顔を歪めている。丈の方も赤い髪の女から目を離せないでいる。驚きに満ちている。
「私は昔あなたに会ったことがある」
「……そうね。私もあるわ」
「私を助けてくれたのはあなただ。幼い頃船の中で」
「覚えている。思い出したわ。なんで私……あの世界ではジョウさんを見て思い出せなかったのかしら」
「あなたは、あの時のままの姿だ。歳を取っていない。もしかして今の時代の人ではないのか……」
「どうやらそうみたいね。私はもしかして10年位以上前の人間かしら。もっとかな。それにここはしかも日本じゃないのね」
二人のやりとりを聞いて驚いた。あの温泉宿で話した、丈が医者になるきっかけの女性ってまさか…… ※『星降る宿 6』参照
「丈は彼女を知っていたのか」
「あぁ……洋、ほら前に話した、私が医者になるきっかけをくれた女性だ。彼女は……」
「おいっ丈、そんなことよりその少年を早く病院へ連れて行った方がいいんじゃないか」
「そうだ!急いで連かないと。早くきちんと病院で診察をしてもらって。彼、酷く苦しそうだ」
「あぁそうだな、分かった」
少年を抱いた丈と赤い髪の女はタクシーに乗り、丈の勤める病院へ行くことになった。
kaiと俺はそのまま湖で助けた青年が待つ家に一旦戻ることにした。なんだか一度にいろいろなことがあり過ぎて、流れ行く車窓に目が追いつかない。
「ふぅ」
「洋? 大丈夫か」
「んっ何が」
「なんだか辛そうな顔してるから」
「kai……そんなことないよ。でもとうとう来たんだな。始まったんだなと思うと凄く興奮するが、ひどく疲れもする。本当に『邂逅』が始まってしまった」
「そうだな……俺も身震いしたよ、あんな風に逆さ虹が見え、人がタイムスリップしてくるなんてな。でも我が家に言い伝えられていたことが無事俺に伝わって、こうやって立ち会えたことに喜びを感じているよ。ヨウ将軍の切なる願いがちゃんと受け継がれ、ちゃんとここに届いたんだから凄いよな!」
「kai……でも、俺は怖い。俺の力でどうやって湖のあの青年を愛する人のもとへ、赤い髪の女性を元の時代へ、病気の少年をヨウ将軍の元へ帰すことが出来るのか、まだ見当もつかない、受け入れることは出来たが、帰す術を俺は知らない」
「洋……」
本当にkaiに嘆いた通りなんだ。俺は何も術を知らない。
「洋、落ち着け。まだ始まったばかりだ。始まったら必ず終わりが来る。必ず術があるはずだ。ゆっくりまたヨウ将軍の手紙を謎解き、考えて行けばいい。一度に考えすぎるな。自分を追い込むな」
「そうだな。ありがとう……まずは戻ろう」
****
一人残された広い家。
見慣れぬ家具に寝かされ、見慣れぬ衣を着せられて……まるでお伽話の世界に迷い込んだようなふわふわと浮いているような感覚。
そして鏡に映したかのような同じ顔をした人は「洋」と呼ばれていた。
俺の名前は「洋月」
彼と俺はつながっている。
だから彼の心が先ほどから俺の心に呼応して、心臓がドキドキしてくるんだ。
興奮した
驚いた
泣いた
願った
誓った
受け入れた
そして今戸惑っている。なんて素直な感情なんだ。こんなにも様々な感情を、俺は抱いたことがあるだろうか。感情なんて必要なかった。乱暴に牡丹の勝手に扱われ続けた長い年月が、俺の心を少しずつ凍らせてしまっていたのだろう。
そんな俺の心を溶かしてくれたのは、丈の中将だった。でも、この世界には君がいない。ここには君に似た人がいるが君じゃない。
君に会いたい。
君の胸に飛び込みたい。
俺を探して嘆いている君の悲しい心は遙か彼方の空の向こうだ。今すぐ君の傍に戻り、俺は生きている。ここにいると伝えたい。
どうやったら君の胸に戻れるのだろう。
不思議なこの空間に迷い込んだ俺には、まだ……その術が分からない。
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