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すぐ傍にいる 2

 空港に着いてKaiと共に到着ロビーに行くと、先に通訳の松本さんが来ていた。彼は俺と同じようにホテル専属契約で通訳の仕事をしている日本人で、先日Kaiから提案されたもう一つの仕事を請けてくれていた。  松本さんの方も俺に気が付いたらしく、目が合うと静かに声を掛けて来た。 「こんにちは崔加さん、あなたも出迎えですか」 「ええ、L.A.から11時到着の便です」 「近いですね。こちらは日本から11時05分着です」 「あれっその人たちは?」  物腰の柔らかな松本さんの横に、随分とごつい体格の男が二人立っているので、気になって尋ねてしまった。 「ボディガードの人たちですよ」 「?」 「なんでも、今回の製薬会社の重役は随分大切な資料を持って来るらしくて、盗まれたり漏洩しないようにとのことらしいです」 「そうなんですか」 「正直戸惑っています。こんな堅苦しい仕事……緊張しますよね」 「そうですね、頑張って下さい」  悪かったかな。あの時Kaiに提案されたうちの一つはこの製薬会社の通訳だった。俺と丈が日本で勤めていた会社が製薬会社だったことが引っかかり、なんとなくこちらを選べず、松本さんに押し付けてしまったのだ。  複雑な気持ちでいると、Kaiに頭をコツンと叩かれた。 「何すんだ? 痛いな」 「ふふっ洋~不安になったのか? 大丈夫。こちらにはボディガードは付かないが、俺がお前を守ってやるぜ」 「……馬鹿か……」  Kaiのいつもの調子に、つい重くなりがちな気持ちをいつも救われている。 「さぁこのボードを持って、そろそろ到着だぞ」 「了解」 ーWelcome Mr. John Smith ー  そう書かれていた。  Mr. John Smith は、今日から四日間同行する相手だ。丈が心配するようなことが起きないように、心の中でそっと願う。 「洋、ぼけっとするな! ほらいらしたみたいだぞっ」 「あっうん」  スーツケースを秘書に押させながら、こちらに向かって歩いてくる男性は、五十代位の中年の白人男性だった。 「Mr. John Smith  Welcome to Seoul.」(ようこそ!ソウルへ) 「you?」(君たちは?) 「A staff in a hotel and an interpreter」(ホテルのスタッフと通訳です)  それぞれ名乗って挨拶すると、彼の目線は俺で停まってしまった。何度も体験した嫌な空気が広がる。 「Beautiful!」 (美しいな!) 「?」 「Indeed an Oriental beauty.」(まさにオリエンタルビューティーだ) 「…」 「I'm glad it's such a beautiful person's interpretation.」(こんなにも美しい人が通訳だなんて嬉しいよ」  彼の眼は少しだけ仄暗く光っていた。俺は男だから、そういう反応は本当に困るだけなのに。その時Mr. John Smith の携帯が鳴ったので話が途切れた。 「ふぅ」  その様子を隣で見守っていたkaiがやれやれといった顔で、俺の耳元で小声で囁く。 「洋、また気に入られちゃったな。お前のその顔は本当に厄介だ。俺の仕事が増える」 「っつ」 「安心しろちゃんと俺が守ってやるぜ。俺が洋のボディガードだもんな」 「お前っ」  また丈に怒られてしまうな。だがこんなこと、気にしていては切りがない。とにかく通訳としての仕事に集中するのみだ。 「It's time.I'll go.」(時間です。行きましょう)  kaiが気を利かせて会話を切り替えてくれたので、俺たちはまだ相手を待っている松本に会釈して車へと移動した。  そうか……あと五分で日本からの便が到着したのか。きっと沢山の日本人がこのソウルにやってくるのだろう。 ****  とうとうソウルに着いた。  果たして洋がまだこの街にいてくれるだろうか。一瞬だけ頭が洋のことを考えてしまったが、すぐに仕事モードに切り替えた。 「さぁこちらです。入国手続きをした後、到着ロビーで現地スタッフが出迎えてくれていますので」 「うむ」  やれやれ……この重役は随分不機嫌そうだな。  手荷物が流れてくるのを待っていると、ガラス越しに到着ロビーが見えた。目を凝らすと『光丘薬品 様』と書かれたボードを持った若い男性が立っている。  あれが現地通訳の人か。横には屈強なボディガードが二人見える。現地のボディガードはさすが体が大きいな。  ふとその通訳が誰かに会釈をしたので、その視線を辿ってみた。

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